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なんとなく気が向いたとき、私はこっそりいつもとは違う流派ーー斜面打起こしで弓を引くことがある。それは桐先や夜多の森でもそうだったし、風舞に入ってからも。
昼休み、トミー先生に頼んで弓道場の鍵を借りた。1人で昼練をしている熱心な部員だと思われているかも。
わずかな間だけど、だからこそ集中できる時間だった。
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「ーーやはり、静華くんは、もともと斜面打起こしの射手のようじゃな」
「っ!?」
そろそろ終わりにしようかと思ったところに、不意に現れたトミー先生。
一手引き終えるのを待って声をかけてくれたんだろうけど、それならいつから見ていたのか。全く気配を感じなかったんだけど……ビビった。
道場に入ってきた先生は何故かお盆を持っていた。その上にはお茶の入ったコップが2つ。
私は察した。抜き打ち面談タイムだ。
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「あの……詳しいことは、コーチには言わないで欲しいんですが……」
トミー先生に促され、片付けを終えてから、道場の端、矢道側に並んで腰を下ろした。古民家の縁側にいるみたいだ。
「よい、よい。心配せずとも、チクったりせんよ」
チクるって。意外と若者言葉使うんだな。
少し冗談めかして答えたトミー先生は笑顔だ。先日、雅貴くんに呼び出しをくらったとき、段位や流派について話したばかりだけど。
「ーーして、静華くんには、静弥くんとは別の師匠がいたのかね?」
「えっ。ああ、師匠というか……私たちは中学から弓を始めたんですけど、いつも経験者の友達に習っていたんです」
「鳴宮くんじゃな」
「はい。あと、もう1人、湊の友達にも上手い子がいて。桐先は顧問の先生とコーチも、みんな正面打起こしでした」
でも、
「たまたま、斜面で引いている先輩を見かけたんです。それで、その……すごくかっこいい射型だなって、思って……」
……なんか恥ずかしくなってきた。トミー先生は変わらずの笑顔で頷いているが。
「なるほど。その先輩に弟子入りしたんじゃな」
「弟子入りっていうほど、大げさなものじゃなかったですけど……そんな感じです」
その先輩には1年ちょっとの間、斜面打起こしで習っていた。その後夜多の森に通うようになって、雅貴くんが教えてくれるようになってからは、ずっと正面で引いている。
「その先輩も、良い師匠だったようじゃのう」
「そう……なんですかね。もちろん尊敬してますけど、有段者ってわけでもなかったんですよね、今考えたら」
「確かに、正式な指導者ではなかったのかもしれんが、静華くんの射はどちらの流派でも見事なものじゃとわしは思う。それは静華くん自身の努力は言わずもがな、良い師の存在も大きかろう」
トミー先生の言う通り、上達には師匠のレベルも影響すると思う。雅貴くんに正面で教わるようになってから、自分でもまともに引けるようになってきたなという実感があったから。
それまで教えてくれていた湊や愁のレベルが低いという意味じゃない。でも、あの2人は先生というよりは一緒に弓を引く仲間という感じだ。ていうか普通に友達だし。
「それで、流派変えに至る経緯を聞いてもよいかのう?」
もちろん無理にとは言わんが、とトミー先生は続けた。
「あー……先輩と、その……疎遠になってしまって。それで、一緒に斜面で引ける人も指導者もいなくなって、1人で続けるのはちょっと難しい気がして」
「そうじゃったか……」
「あ、いや、ケンカしたとかじゃないんですけど。なんか、家庭の事情? っぽかったんで、あんまり詳しく聞いてないんです。ちょうどその頃に雅貴くんと知り会って、正面でも引くようになりました」
でも、せっかく教えてもらった斜面を忘れたくないから、今でも練習は続けていた。
先輩の射を、思い出しながら。