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「実は、静華くんが本当は斜面で引きたいのではないかと、心配していたんじゃが」
「それは、まあ……大丈夫ですけど……。というか、トミー先生は何で私が斜面で引いていたことを知ってるんですか?」
過去の大会を見ていた可能性はあるけど、公式試合では正面で引いていたし、高校に入ってからも部活中は正面だ。この昼練だってそう頻繁にやっているわけじゃない。
「トップシークレットじゃ」
「…………」
「ーーと、言いたいところじゃが、たまたまじゃよ。君は、昇段審査では斜面で引いていたじゃろう?」
教えてくれる気はなさそうだ、という諦めが顔に出ていたのか、トミー先生は苦笑してそう言った。
「静華くんの参段審査のとき、わしは審査員をしていたんじゃよ」
「……え!? そうだったんですか!?」
「中学生で参段を受審する者はそう多くはおらんから、当時は注目されておったのう」
「知らなかった……すみません、審査の先生方のことまで、頭回ってなくて」
「なに、構わんよ。審査には、試合とはまた違った緊張感があるものじゃ」
中学のときに受けた審査は、受けたというより受けさせられたようなものだから、とにかく失敗しないようにとそればっかりだった記憶がある。
まさかトミー先生が見ていたなんて、予想外すぎるけど。
「桐先弓道部は強豪じゃ。良い射手は手放さんじゃろうと思っておったが……なんにせよ、静華くんや静弥くん、鳴宮くんまでもが風舞に来てくれて、わしは嬉しい」
「そんな、褒め過ぎですよ、嬉しいですけど」
「実力に驕らず、向上心を持ち続けることも素晴らしいことじゃよ」
「な、なんなんですか、褒め殺そうとしてます……?」
同年代の中ではまあ上手い方かもしれないけど、弓道界で言ったら初心者に毛が生えたレベルだろう。歴も浅いし、斜面を捨てきれず流派すら定まっていない。
それに弓道を始めたのは、湊に誘われて、静弥もやるからという単純な理由だ。ちゃんとやろうと思ったのは、斜面を引く先輩の影響ーーというと聞こえがいいけど、実際あれは一目惚れというか、一射惚れというか……結構勢い任せだったから、正直、褒められると後ろめたくなる。
「トミー先生、私、褒められると調子乗っちゃうんで、あんまりおだてないでください」
私がそう言うと、トミー先生は笑った。
「ほっほっほ。おだててはおらんが、困らせてしまっては意味がない。ーーそろそろ昼休みも終わりじゃ、戻るとしよう」
「はい。ありがとうございました。話、聞いてくれて」
「大したことはしとらんよ。わしも少々突っ込んだことを聞いてしまったしのう」
トミー先生は言葉を続けた。
「言いたくないことは言わんでよいが、何かあればいつでも聞こう。もちろん、恋愛相談もウェルカムじゃよ」
「えっ。……しないですよ?」
「それは残念じゃ」
それから文化系職員室に寄り、道場の鍵を返してトミー先生と別れた。
教室に戻って席につくと、七緒が早速話しかけてきた。
「どーこ行ってたの? さっき遼平が探してたけど」
「ちょっと弓引いてたら、トミー先生が現れたから、一緒にお茶してた」
「何その状況……」
自分でも言っててそう思う。