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部活を早退して、そのまま夜多の森弓道場に向かった。

長い階段を上り終えて道場の扉を開くと、そこには何人かの弓引きがいた。

「あれ、今日って……」

「……あら、見学の子かしら?」

「えっ、あっ、す、すみません、失礼しました!」

地元弓友会の活動日だったようだ。慌てて扉を閉めて一度退散しようとすると、意外なこと呼び止められてしまった。

「ああ、ちょっと待って」

「は、はい……?」

「弓を引きに来たんでしょう? 今日は人数も少ないから、よかったら一緒にどうかしら?」

「えっ、と……いいんですか?」

「本当は見学の予約が必要だけどね。今日は先生方が講習会でいらっしゃらないから、特別にね」

それほんとに大丈夫なの?

とは思うものの、声をかけてくれたおばさまは私の手を引いて道場内に連れ込んだ。

「更衣室の場所はわかるわよね? 準備ができたらまたいらっしゃい」

「はい……」

弓と矢筒を人質にされーーじゃない。預かってもらって、更衣室に入った。

想定外の状況だけど、弓が引けるならまあいいか。

弓道着に着替えて道場に戻ると、先ほどのおばさまが待ち構えていた。

「私は琴葉市弓友会の、松崎まつざき澄江すみえと申します。あなたのお名前は?」

「竹早静華です。風舞高校の1年です」

「あら、風舞の生徒さんなのね。この間、弓道部が県大会で優勝したと聞いたわ」

「あ、はい、一応……」

私がそう答えると、松崎さんは何故か笑った。

「――なんてね。本当は私、あなたのことを知っているのよ」

「えっ?」

何故? と思わずにはいられない。初対面だし、見覚えもない人だ。

「孫が高校で弓道をやっていてね。地方大会に応援に行ったときに、あなたの射を見たわ」

「う、地方大会ですか……」

「とても良い射だったわ。だからつい引き止めちゃって、ごめんなさいね」

「あ、あの、何で良い射だと思ったんですか……? 地方大会は、その、正直あんまりうまくいってなくて……」

「あらそうなの? まあ、最後の方はアレだったけど、全体的には良かったわよ」

アレって。いやまあ、アレなんだけど。

「決勝のとき、その、ちょっとお腹痛くて、貧血で……」

「あら、それは災難だったわね。でももう治ったんでしょう? 切り替えていきましょう」

心配そうな表情から一瞬で笑顔に変わった松崎さんは、私の背中をぺしぺし叩いて元気づけてくれた……んだと思う。

「人生諦めが肝心よ。ほら、引いた引いた」

なんてことを若者に教えてるんだこの人は……。

ともあれ松崎さんに促され、的前に立った。

*****

「静華ちゃん、あなたとっても器用ねぇ」

「え……何がですか?」

松崎さんのほかにも数人弓友会の方がいて、めちゃくちゃ見られながら一手引いた。大会の観覧客よりもうんと少ない人数なのに、妙に緊張する。

「だって射型は正面なのに、引き方がまるで斜面打起こしだわ。ちゃんと先生はいらっしゃるの?」

「! っ、先生は、います。部活の顧問とコーチが」

「風舞は正面よね? 大会で見たときは男子もそうだったし」

「はい。あの、でも、私は中学生のとき、斜面で教わってた時期があって……」

「ああ……なるほど、それで。今後は正面で引くの?」

「えっと……」

完全に正面に変えるつもりかと聞かれると、正直なところ、素直に頷けなかった。

雅貴くんやトミー先生には正面で引くと言って練習してきたけど、地方大会でいざ斜面をーーいや、永亮くんの射を見たら、やっぱり"自分もあんな風になりたい"という、最初の気持ちがよみがえってきてしまったのは事実だ。

「本当は斜面で続けたかったけど、教えてくれる人がいなくなって」

気付いたら、そう零してしまっていた。

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