ゆうなは心配

【ゆうな視点】

何故か川に落ちてびしょびしょになった男子たちをお風呂に行かせた後、滝川コーチは急に血相を変えて弓道場を立ち去った。

「コーチは一体どうしましたの?」

「さあ……? 珍しく慌ててたみたいだけど」

「でもコーチが慌てるのって、だいたい藍関係じゃない?」

普段の部活を思い出すと、コーチが変な行動を取るのは藍が絡んだときくらい。

そして妹尾がはっとした様子で言う。

「もしかして藍、まだお風呂掃除をしてくれてる最中なんじゃ……」

「嘘!? それってまずくない!?」

このまま男子がお風呂に行ったら、藍と鉢合わせてしまうかもしれない。それに気づいたコーチは慌てて出て行ったんだとわかった。

「とはいえ、コーチも向かっていますし、あの男子たちに限って何もないとは思いますけれど……」

「うん。私たちは道場の片付けと夕飯の準備を進めておこう」

妹尾も白菊さんも心配してくれていたけど、今はコーチと藍が戻ってくるのを待つしかなかった。

*****

結局、あの後藍はコーチと一緒に戻ってきた。特に変わったところはなかったから、何事もなかったんだと安心したけど……。ちなみに、コーチの不注意には私からも少しきつく言ったら、意外なほど素直に反省していた。

藍は藍で男子たちとも普通に喋ってるし、私も少し心配しすぎだったかも。

「男子、仲良くなったよね」

そんな私の心配も露知らず、藍は嬉しそうにそう言った。

初めて会った頃とは別人というくらい明るい性格になった藍だけど、根っこのところは変わっていない気がして嬉しくなる。

「確かに、朝とは雰囲気が違うかも」

「うん。あ、ゆうなと乃愛、お水いる? 持ってくるよ」

私と白菊さんのコップが空になっていたのに気づいた藍が席を立とうとしたところ、白菊さんが止めた。

「ありがたいですけれど、今回は藍も"ご主人様"ですわ。ーー如月くん、冷たいお水をくださる?」

「かしこまりました、ご主人様」

さっと現れた如月くんがお水を取りに行く。

それにしても……。

「白菊さん、言い方が板についてる……!」

「次は私に注文させて!」

白菊さんはやっぱりお嬢様だ。

っていうか藍、"注文"って……なんか違う気がするけど、楽しそうだしまあいっか。

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