海斗とラッキースケベ
合宿前の勝負の結果、下僕と化した男子5人。
女子、もといご主人様の見取り稽古にしびれを切らし文句を言い始めたところで、雅貴は追い打ちをかけるように買い出しという名の雑用を命じた。
普段私が担当している雑用はほとんど下僕がやってくれていたし、道場での仕事はもうなかった。
「雅貴、私お風呂の準備してくるね」
「ああ、悪いな。こっちは16時頃に終わろうと思っているから、先に入ってもいいぞ」
「うん」
神社の中にある風呂は広い。温泉とまではいかないが、ちょっとした銭湯だ。定期的に浴槽の掃除はされているけど、みんなが使う前に床の掃除はしておく必要がある。
部活のときに着ていたジャージを脱ぎ、下着だけを着て黙々と掃除をしていた。
どうせ濡れるし人も来ない。来るとしても母だろうから適当な格好でいいやと思っていたんだけど。
「えっ、うわっ!?」
「っ、危ねぇ!」
掃除を終えて風呂から出ようとしたところで、入ってこようとした誰かとぶつかった。
身構えていた程の衝撃はなかったけど、混乱しすぎて状況を全く把握できなかった。
つぶってしまっていた目を開けると、まず視界に入ったのは胸元に埋まった人の頭。
「痛ってぇ……っておい、大丈夫か藍ーーっ!?」
顔をあげた海斗と至近距離で目が合った。
「かっ、あ、う、えと」
腰にタオルを巻いただけの海斗に押し倒されたような体勢になってしまい、混乱と恥ずかしさで身体が動かない。海斗の顔も真っ赤になっていた。
「海斗、すごい音したけど大丈夫?」
「かっちゃん! ――って、えっ!? どういう状況!?」
七緒と遼平らしき声と足音が後ろから聞こえてきて、海斗は慌てて体を起こそうとした。
「あっ、待って!」
私は咄嗟に海斗の腕を掴んで引き止めた。今動かれたら2人にもみっともない姿を見られてしまうし、それにーー
「おおおおおお前っ、何のつもりだよ!?」
「ごめん!! でも、その、見られると……」
昔の事故で負ったケガの痕がある左の脇腹を手で覆った。
「お前、それーー」
「藍ー!! すまん!! 大丈夫か!?」
海斗が言葉を続ける前に、雅貴が乱入してきた。
「マサさん!?」
「!? 海斗、お前、どういうことだ」
「待って雅貴! 海斗とはぶつかって転んだだけ! 大丈夫だから!」
「……わかった。海斗、一旦どいてくれ」
「えっ、あ、ああ」
海斗が体を起こす。七緒と遼平は気を遣ってくれたのか、扉の近くにはいないようだった。
「ケガは? 痛まないか?」
「大丈夫、海斗がかばってくれたから。あの……ありがと」
海斗は目を逸らしたまま小さく返事をした。
雅貴の持っていたバスタオルを巻かれると、そのまま抱き上げられる。
「ちょっ、雅貴、歩けるって!」
「いいから。ーー悪いなお前ら。藍は俺が連れて行くから、風呂入って川臭いの落としとけよー」
離してもらえそうにないので、落ちないよう雅貴にしがみつく。恥ずかしすぎて男子たちの方は見られなかった。