絶対にツッコんではいけない滝川家@
【湊視点】
マサさんと藍のお兄さんだという蓮さんを交え、弓道部の合宿が幕を開けた。
マサさんの矢渡しの介添えを小野木とともに務め終え、着物から弓道着に着替えて道場に戻ると、練習の準備をしているのは何故か女子だけだった。
そしてその光景を矢庭から写真に収める蓮さん。そしてその横にぴったりとくっついている藍。
「お前ら、何だらけてんだよ」
一緒に戻ってきた小野木は
「湊、海斗。何で道着を着てるんだ?」
「マサさん。何でって、練習するんだし」
「おいおい、男子5人は下僕だぞ。まずはご主人様たちの練習を手伝え」
「はぁっ!? ちょっと待ってくれよマサさん――」
「小野木。その話はもう終わったよ。いいから湊と一緒にTシャツに着替えてきてくれる?」
反論しようとした小野木の言葉を遮ったのは静弥だった。笑顔だが、謎の迫力がある。
「さすが部長は話が早いなぁ。そういうわけだ、もう一回着替えてこい!」
遼平と如月も諦めたような表情をしていた。これはおれたちが来る前に一悶着あったに違いない。そしてマサさんに言いくるめられてしまったんだろう。
こういうときはだいたい藍がマサさんを説得して、なんとかしてくれるんだけど……。
「蓮、蓮、写真見せて!」
「まだそんなに撮れてないって」
「えー、じゃあ良いの撮れたら一番に見せてね!」
「わかったよ。ったく、相変わらず甘えん坊だな」
あれは本当に藍なのか。こう言ってはなんだけど、傍から見るとなんというか、その、バカップルの会話だった。
「おい蓮! 藍はこっちで仕事があるんだから、邪魔をするなよ!」
「そっちの仕事終わったから蓮のとこにいるの!」
「終わったなら俺のところにいなさい! 蓮のそばは教育に悪い!」
「おい雅貴、そりゃどういう意味だ!?」
マサさんの様子もおかしいし……。本当に何言ってるんだ?
蓮さんはマサさんのお兄さんのはずだけど、そんなに当たりが強いものなんだろうか。おれには兄がいないからよくわからないし、兄のいる静弥に聞ける雰囲気でもなかった。
準備を終えて待っている女子3人も訝しげな表情だ。
「ゆうなは藍と中学が一緒だったんだよね。前からあんな感じだったの?」
「いや、私も藍にお兄さんがいるのは聞いてたけど、会ったことはなくて……」
「兄妹というのは、皆あんなに仲が良いものなんですの?」
白菊、それは絶対違うと思う。
「小野木、とりあえず着替えに行こう」
「お、おう……」
マサさんたちのやり取りに驚いているのか、小野木は珍しく反論してこなかった。