七緒と帰り道
【七緒視点】
「ごめんね、うちのかっちゃんが」
「気にしてないよ。悪気なさそうだったし」
「そっか」
部活終わりにかっちゃんが抜け駆けしてたところを割と無理に連れ出してきた藍は、なんでもないようにそう言った。
「それにしても、マネージャーかぁ。弓道部には無縁の存在だと思ってたよ」
「やっぱり不満?」
「全然! 部活らしくていいっしょ。でも、経験者なんだよね?」
「小学生のときにちょっとだけね」
「やめちゃったの?」
「あー……」
藍は右手で左腕を押さえて言い淀んだ。
「ケガでできなくなったんだよね。かわいそがられるの嫌だし、他の人には言わないでね」
「そうだったんだ。ごめん、デリカシーなかった」
「ううん、そりゃ気になるよね。あ、ゴム弓とか7kgくらいのなら引けるから」
「そうなの? じゃあ今度こっそり引いてるとこ見せてよ」
「え〜……」
「気が向いたらでいいからさ」
「考えとく」
藍は少し困ったように笑ったけど、本気で嫌がってはいないようだった。
それからは学校のこととかかっちゃんのこととか、お互いのファンクラブのことなんかをお喋りしながら帰った。
「そういえば、七緒ってどのへんに住んでるの? 私普通に帰っちゃってるけど方向一緒?」
「いや? でも、藍を無事に家まで送るっていう重要ミッションがあるっしょ」
「いや、ないっしょ……」
ありがたいけど申し訳なくなるから先に言って、と。良い子だなぁ。
「あ、もうそこのアパートだから」
藍が指差した先を見ると、向かいの道から歩いてくる長髪の男が見えた。しかも弓と矢筒を背負っている。
「藍ってば、もしかして弓引きホイホイ?」
「いや、あれは……」
藍は"げっ"というような顔をした。知り合いなのかな。
「お、藍! 偶然だな。……それは彼氏か?」
こっちに気づいた男が走ってきたと思ったら藍と親しげに話し始める。そしてすぐにオレは睨まれた。
「違うって。友達」
めんどくさそうに答えた藍だったが、謎の男は納得していなさそう。
「七緒ごめん。これ兄。気にしないでいいから」
「えっ、お兄さん!?」
「お前の兄になった覚えはないぞ」
「いや、そういう意味じゃないっす」
典型的なシスコンお兄さんだった。
藍と同じく端正な顔立ちで、艶やかな目元がなんとなく似ている気がする。残念なイケメンってやつかもしれない。
「七緒って言ったか。藍を送ってくれたのには感謝するが、付き合ったりするのは俺の許可がないとだめだ」
「雅貴は黙ってて。七緒ありがと。また学校でね」
「あ、うん。また明日!」
かもしれないじゃなくて、残念なイケメン確定だった。