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滝川の前で引いた一手はどちらも的には中らなかったし、早気も治っていなかった。
だけど部活の説明会のときみたいな嫌な気分にはならなくて。
「滝川、どこか気になるところとかあった?」
「えっ。私に聞く?」
「滝川の射、すごく綺麗だったから」
「鳴宮くん……意外とキザだね」
「なっ、そういうんじゃない!」
「いや、素質あるな〜」
「なんでそう、からかうんだよ……」
「だってちゃんとリアクションしてくれるから、つい」
滝川はニッと笑った。見かけによらず気さくというか、なんというか。
「射形だよね。ぱっと思いつくのだと、円相がちょっと崩れてるかも。ちょっとだけね」
「円相か……」
胴造りから打ち起こしの間、よく"大木を抱えているイメージで"と指導されるものだ。
徒手で形を作ってみると、滝川は思いもよらないアドバイスを投げてきた。
「もっと"脇だぞ!"ってアピールする感じ」
「は?」
少し前、マサさんから同じようなことを言われたのを思い出す。そのときは脇じゃなくて脇毛だったけど。
「鳴宮くん? おーい」
「……はっ、え?」
放心していたおれの顔を覗き込んだ滝川。
「滝川って、もしかして兄弟とかいる?」
「どしたの突然。いるけど」
逆になんで今まで気づかなかったのか疑問だ。というか、名字が"滝川"だというところで気づくべきだった。
「マサさんとそっくりだ」
「……え、鳴宮くん雅貴と知り合いなの」
何故か頬をひくっと引きつらせた滝川。もしかして仲悪いのか?
「この前偶然ここで会って、早気を治すのに付き合ってもらってたんだ」
「なっ、先に言ってよ!」
「悪い、でも、今気づいたんだよ」
「雅貴に習ってるなら私のアドバイスいらないじゃん……」
ちょっと拗ねたように言った滝川の反応は新鮮だ。今日が実質初対面だし新鮮も何もないが。
「そんなことないって」
「もう」
怒っている滝川にあまり迫力はない。
「鳴宮くん、もう少し引いてく? 私はもう終わりにするけど」
「いや、今日は帰るよ。マサさんも来ないみたいだし」
「わかった。じゃあ、またね」
「今日はありがとう。また学校で」
滝川は手を振って更衣室に入って行った。
おれも帰ろうと道場の出口の方へ振り向くと、
「よう、湊」
マサさんがいた。
「マサさん! 今日は来ないのかと思った」
「ん? ああ、妹を迎えに来たんだよ」
「やっぱり兄妹だったんだ。神社の方に住んでるんじゃないの?」
「いや、藍は俺と2人暮らしだよ。表向きは俺も神社に住んでることになっているが、母の一人暮らしだ。ちなみに父は単身赴任中」
いつも通り喋っていたマサさんだったが、急に真面目な顔になる。
「ところで湊。藍とはどういう関係だ」
「どういうって……クラスメイトだけど」
「それだけか?」
「というか、まともに話したのも今日が初めてだ」
「そうか……ならいいんだ」
「?」
よくわからないが、マサさんは納得したようだった。