静弥と放課後

【静弥視点】

トミー先生という予想外の存在により、風舞弓道部の再生はとんとん拍子に事が進んだ。

遼平との再会や経験者の入部もあり、あとは湊をどう復帰させるかというところ。

放課後、湊はHRが終わると同時に帰ってしまった。長期戦は覚悟の上だけど……。

「竹早くん、部活行こ? 山之内くん来てるよ」

今後の戦略を練ろうと思っていたところに声をかけてきたのは、同じく弓道部の滝川さんと遼平だった。

「もう、また湊に逃げられちゃったよ!」

「山之内くん、ほんとに湊のこと好きだよねー」

「うん、湊かっけぇ!」

遼平と滝川さんもいつの間にか仲良くなっていて、よくこの教室を訪れる遼平と話しているみたいだ。

最近では3人で部活に向かうのがお決まりとなっていたし、だいたい話題は湊のことばかり。

「そういえば、滝川さんって湊と仲良かったっけ? さっき名前で呼んでたよね」

「あー、うん、この前話したばっかりだけど。その時は私のお兄ちゃんも一緒にいたから、混ざるし名前の方がいいかーって」

湊と話しているところを見たことがなかったから聞いてみる。キョトンとした滝川さんだったが、納得したようにそう答えた。

「お兄ちゃんも弓道やってて、なんかたまたま知り合ったみたい。よく知らないけど」

「なんかすげえ! あっ、それで滝川さんはマネージャーに?」

「まあそんなとこ」

「そっかぁ。気が向いたら滝川さんも一緒に弓引こうよ。俺も滝川さんに教えられるくらい上手くなるから!」

「じゃあ山之内くんが五段くらいになったら私も始めようかな」

「えぇっ!?」

遼平はよくこうして滝川さんにからかわれているけど、その光景は正直微笑ましい。

だけど、僕は滝川さんが真実を話していないことを知っている。

入学してすぐ、50音順の名簿で僕の1つ前にあった"滝川藍"という名前には聞き覚えがあった。

そして、父の経営している病院で彼女を見かけたことがある。

滝川さんのことを知ったのは小学6年生のとき。

湊とお母さんが巻き込まれた事故からしばらく経った頃、父の診察を勝手に覗き見ていたときの患者が滝川さんだった。後から覗いていたことがバレて叱られたせいかよく覚えている。

あの事故の被害者は湊たちだけではなく、他にも怪我人が何人かいた。亡くなったのは湊のお母さんだけだが、中でも重傷だったのが湊と滝川さんとのことだった。両親からも湊の他に同年代の子供が巻き込まれていたことを聞いた覚えがある。

確か当時は別の苗字で呼ばれていたはずだが、親の再婚か離婚か、今滝川と名乗っている理由はわからない。

まさか、こんなところで出会うとは思ってもみなかったけど。

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