@ 海斗と初心者ちゃん

【設定】
・風舞高校1年7組。海斗、ゆうなと同じクラス
・海斗に一目惚れして弓道部に入部した初心者
・厳しい家に生まれ育ったお嬢様
・やや天然の癒し系敬語キャラだが頭は回る方


*****

「えっ、初心者のみなさん、やめてしまったんですか!?」

すぐに的前に立てない、正座が無理、袴が着たかっただけ、七緒のファンだが海斗が怖い、ただただ海斗が怖い等、理由は色々あるが結果的に残った初心者は愛生だけだった。

「如月も小野木も言い訳に使われただけで、彼らは遅かれ早かれやめていたよ。かえっていい踏み絵になったというものさ」

妹尾がそう言うと、白菊と花沢はそのかっこよさを噛み締める。

「なら、残った舞田さんはガチで弓やりたいってことっしょ?」

「もちろんです! ガチで弓やりたいです!」

七緒の言葉に笑顔で頷く愛生。

「如月くん、舞田さんに変な言葉教えないでよー」

「えっ、"ガチ"って変な言葉なの!?」

「舞田さんはうちのクラスの天然記念物なんだから」

愛生はそのちょっとズレ気味の言動から、クラスメイトには完全に天然扱いされていた。

当の本人は"別に天然じゃないんだけどな"とは思いつつ、クラスメイトが好意的に接してくれているのはわかるため、特に訂正する必要もないかと判断している。

「ガチでやりてーなら、さっさと準備しろよ」

「ひゃぁっ、お、小野木さん! すみません!」

愛生たちが雑談をしていると、弓矢を持った海斗が後ろから話しかけた。突然声をかけられて驚いた愛生を見て、すかさず七緒がフォローに入る。

「かっちゃん、ビビらせすぎ。舞田さん、これ全然怒ってないから大丈夫だよ」

「はい、でも小野木さんの言う通りですから。私はトミー先生がいらっしゃるまで見取り稽古をしますね!」

愛生は何故か敬礼をしてからその場に正座した。

「おっ、やる気満々だね。オレも準備しよっと」

「おい、座るならあっちにしろ」

「はっ……すみません!」

愛生は一瞬周りを見回した後、海斗の示したスペースに小走りで移動して座り直した。

「かっちゃんさ、もうちょっと言い方ってもんがあるっしょ」

「……」

海斗自身、言ってから"あ、言いすぎた"と思っているが、それを訂正するわけでもなく。言われた愛生も素直に行動するため、軽い謝罪すらするタイミングが海斗にはわからなかった。

*****

その日の帰り道、愛生はクラスメイトでもあるゆうなと一緒に帰っていた。

「舞田さん、今日は練習どうだった?」

「楽しかったですよ。射法八節は覚えましたし、明日からはゴム弓を使っていいそうです!」

「おお、早いね〜」

「そうなんですか? 夏まで的前には立てないようなことは噂で聞きましたけど」

「個人差はあるけど、私もそのくらいだったかな。でも舞田さん覚えるの早いし、もうちょっと早く出られるかもね」

「だといいんですが……トミー先生を私の練習に付きっきりにさせてしまうのは申し訳ないですし」

「気にしすぎだよ。私たちもちゃんと教わってるって」

そういえば、とゆうなは話を変える。

「舞田さんは何で弓道始めようと思ったの?」

「えっと……すみません、実は私も他の方と一緒で、その、かっこいい男の子につられてしまい……」

「そうなの!?」

ゆうなは予想外の理由に驚いたが、愛生が真面目に稽古をしているのを見ていたためそれを不快には思わなかった。

「誰? 誰?」

「い、言わなきゃダメですか……?」

顔を赤くさせた愛生だったが、珍しいその反応にゆうなのいたずら心が刺激されてしまった。

「やっぱり如月くん? それか一緒に練習してた山之内くんとか?」

「いえ、小野木さんです」

「小野木くんはないかぁ……って小野木くん!? 何で!?」

「一目惚れだったんです……接してみたら、性格も真面目で優しい方でしたし、根の聡明さも感じます」

「優しい!? 今日もなんか、邪魔だーみたいなこと言われてなかった!?」

「え? ああ、あれは私が巻藁の近くに座ってしまったから、危ないと思って注意してくれたんじゃないでしょうか?」

「もしかして舞田さん、すごいポジティブ……?」

*****
【マサさん視点】

「こうですか?」

「そう、そのまま肩甲骨を下ろすイメージで開いてみろ」

風舞弓道部のコーチになってからしばらく経った頃、俺と森岡先生は連休を利用した合宿の計画を立てていた。

唯一の初心者部員である舞田も、そこで的前に立たせてみようと思っていたが……。

「舞田、的前出てみるか?」

「えっ。……大丈夫でしょうか?」

巻藁から矢を抜いた舞田は驚いた表情だ。

森岡先生からも聞いていたが、舞田は覚えが早い。いや、覚えたことを身につけるのが早いと言うべきか。

「俺は大丈夫だと思うぞ。森岡先生からも俺の判断で構わないと言われているしな。舞田が不安なようなら後日でもいいが……どうする?」

「それはもちろん、やってみたいです!」

さっきまでとはうって変わって、目をキラキラとさせた舞田。なんというか、この子は教えがいがあるなあと感じる。

なんだか小動物に見えてきてつい頭を撫でそうになったが、セクハラだと嫌がられたら心が折れそうなのでやめておく。何より海斗に嫉妬されても困るしな。

「よし。お前ら、悪いが中の的を空けてくれ。ーー舞田の的前デビューだ!」

「おー! 舞田さんおめでとう!」

七緒が場を盛り上げつつ的を空けてくれた。

「ありがとうございます!」

「マサさん、いくらなんでも早くないか? まだ入部して1ヶ月も経ってないのに」

お祝いムードに構うことなくそう反論した海斗だったが、彼の言うことはもっともだ。

「俺も時期的には早いとは思うが、舞田を見ている限り、特に的前に出して危険を感じるようなこともないしな」

「……まあ、マサさんがそう言うなら」

「ケガさせたりしないから、心配しなくても大丈夫だぞ、海斗」

「俺は別にそんな心配はーー」

「はいはいかっちゃん、舞田さんも早くやりたいだろうし、どいたどいた」

顔を赤くした海斗は七緒に連行されて行った。わかりやすい奴だ。

「良かったな舞田、海斗が心配してくれてたぞ」

「えっ! えと、えへへ……ありがとうございます……」

小声でそう言ってみれば、舞田はふにゃりと笑った。甘酸っぱいなこいつら。

早く付き合っちまえばいいのに、と外野としてはそう思う。

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