@ 友達
【七緒視点】
数日前に入部した、弓道経験者の二階堂愛生ちゃん。
全体的に色素薄めで儚げな印象のミステリアス美少女だ。
でも、彼女の射は力強くて、格好良い。
放課後に道場を訪れると、そこにいたのはまだ二階堂ちゃんだけだった。制服姿のまま準備を進めている。
「メッハー、ニカちゃん」
「めっ、はー? ……ニカちゃん……?」
彼女のテンポは独特だ。話し方がゆっくりというか、基本的に単語だけで話すことが多い。
別にそれが変だということではなく、そんなところも彼女のミステリアスな雰囲気を演出していて、魅力のひとつだとオレは思う。
「トルコ語でこんにちはって意味の、メルハバの略! んで、ニカちゃんはあだ名。なんか良いっしょ?」
「! あだ名、うれしい……。メッハー、使っていい?」
「もちろん。あと呼び方、七緒でいいよ」
ニカちゃんは意外と、冗談が通じる子だ。いや、メッハーは冗談じゃないんだけど。
なんだか会話がクセになる、会ったことのないタイプの女子だった。
オレはといえば、彼女の表情を変えてみたい、そんな変な欲が出てきてしまっていた。かっちゃんの圧にも動じなかった彼女だ、相当安定したメンタルの持ち主に違いない。
「女子とは仲良くなれた?」
「ん……わからない。多分、嫌われては、ない」
「そっか。じゃあ、もっと仲良くなれるといいね」
ニカちゃんは頷いた。
「ニカちゃんは、いつから弓道やってるの?」
「……小4。叔父さんと、お兄ちゃんが教えてくれてた」
「へえ、お兄さんいるんだ」
「うん」
ニカちゃんの表情が少し和らいだ気がした。
「お兄さんと仲良いんだね」
「! うん。……変?」
「全然変じゃないっしょ。オレも妹がいるけど、仲良しだよ」
「そう、なんだ。……よく、変だって言われる」
「変っていうか……テンポが独特だよね。でも、オレは話しやすいと思ってるよ」
「七緒くん、変わってる。私に言われたく、ないかも、だけど……」
ニカちゃんは少し眉尻を下げて笑った。……はず。
「そんなことないって。みんなニカちゃんと仲良くなりたいと思ってるっしょ」
「仲良くなるのは、弓に必要?」
「そりゃ必要だよ。チームなんだからさ」
「……チーム」
少し首を傾げたあと、"じゃあ、頑張る"とニカちゃんは言った。
*****
【海斗視点】
「……なに?」
二階堂の射込みを見ていたら、いきなり振り向いてそう聞かれた。
「見すぎ」
「なっ、み、見てねえ!」
二階堂は首を振って否定する。
「……えっち」
「はぁ!?」
「かっちゃん、いくらニカちゃんの射が綺麗だからって、それはだめだよ〜」
「ふざけんな! 俺はそんな目で見てねえ!」
「冗談」
からかってくる七緒に反論していたら、二階堂は突然そう呟く。
「「えっ」」
七緒とハモった。そして二階堂は相変わらずの真顔だ。
「お前の冗談はわかりづれえ! 言うならもっと冗談っぽく言え!」
「……どう、やって?」
なんだこいつ、どこまでが本気なのか全然わかんねえ。
「ニカちゃん、オレの真似してみ? ――やーい、かっちゃんのえっち〜」
「……やーー」
「二階堂さん、やらなくていいから!」
二階堂は花沢により女子の集まりに連れていかれた。
「おもしろいよねぇ、ニカちゃんと話すの」
「七緒……お前、あいつのことイジってんのかよ?」
「違うよ」
確かに二階堂の喋り方には独特のペースがある。けど、そういう特徴をバカにするのは気分が悪いしダセェ。七緒にそういう意図はないとわかって少し安心した。