@ コーチ
「マサさん!?」
「マサさん!!」
「……マサさん?」
トミー先生が呼んだコーチの姿を見て、湊、海斗、愛生の3人が声をあげた。
そして3人は顔を見合わせる。最初に口を開いたのは愛生だった。
「知り合い?」
「お前こそ知り合いかよ」
海斗にそう聞かれて頷く愛生は一度マサさんを見て、言葉を続けた。
「えっと……マサさんの車で、家に……」
愛生のその言葉に、部員たちはざわついた。
「おいおい、その言い方だと俺が誘拐犯みたいになるだろ」
「? 違う。送ってもらった。夜遅くに」
「待て待て、話を端折りすぎだ」
ボケとツッコミが成立していた。
「うちの弓道場で偶然会って、少し一緒に引いていただけだ。やましいところは一切ないから安心してくれ」
このままではあらぬ誤解を増やしかねないと思ったマサさんが自ら説明すると、愛生もそれに頷く。
ともあれ、マサさんの自己紹介を終えてから、部活が始まった。
「マサさん、お願いがあります」
「どうした?」
愛生はマサさんに自身のスマホを差し出した。
「射を、撮ってほしくて……」
「ああ、いいぞ。というか、そんなに遠慮しなくてもいいんだからな?」
「でも、撮ってる人、いないし……」
「なら、記念すべき第1号だな。自分の射を客観的に見るのは大事なことだし、良い心掛けだ」
「……マサさん、甘やかすの上手」
愛生はマサさんがスマホを受け取ったのを見ると、弓を取りにその場を立ち去った。
マサさんは、照れているのは特にわかりやすいななんて思いつつ、愛生の準備を待っていた。
*****
マサさんが愛生の射込みを撮っている間、他の部員たちはなんとなく見学モードに入っていた。
「どうしたんだみんな、好きに引いてていいんだぞ?」
「ニカちゃんの射が見たいので見学です!」
「オレも! 斜面打起こしって全然見たことないし」
そう答えた遼平と七緒に続いて頷く部員たち。愛生は視線をさまよわせた。
「……恥ずかしい」
「ーーだそうだが」
「中学のときも試合には出てたんだろ? 今さら恥もクソもなくないか?」
「こーら、かっちゃん。女の子に向かってそんなこと言わないの」
「堂々とすりゃいいのに、あいつがもじもじしてっから……!」
もじもじしている、と言われた愛生は途端に真っ青になる。
「っ、ごめ、なさい……」