@ 地方大会-1
【湊視点】
地方大会に出場するため、おれたちは県外の会場にやってきた。
待機場所に集まっていると、二階堂がスマホを握ってなんだかそわそわしているのが見えた。
「愛生ちゃん、どうかした?」
花沢も気づいたみたいで声をかけている。
「なん、でも、ない」
「いや、絶対何かあるでしょ」
不自然に目を逸らしてごまかそうとした二階堂だったが、ソッコーでバレていた。嘘が下手すぎる。
「今日……お兄ちゃんも、来てるから、どこかなって、思って……」
二階堂がお兄さんっ子なのはみんなも知っている、というか察していた。しかし本人はそれを子供っぽくて恥ずかしいと思っているらしく、答える声はいつも以上に小さい。
「そうなんだ! どこの高校?」
「辻峰」
「答えるの早っ。えーと……あ、あった! 大前の人だね」
七緒はツッコミを入れつつ、大会のプログラムをめくって辻峰高校を探した。おれたちもそれを覗き込んで見ると、男子団体戦のページに名前が書かれていた。
二階堂のお兄さんーー二階堂永亮先輩は、おれや静弥とも面識がある人だ。
二階堂先輩は、桐先をやめて県外の高校に進学していたらしい。しかも、よく見たら辻峰は県大会優勝校。トーナメントを勝ち上がれば、いずれ対戦することになりそうだ。
「お兄さんから何か連絡あったの?」
「うん。個人戦、すぐ始まっちゃうから、終わったら会おうって。あの……会いに行っても、いいですか?」
二階堂は遠慮がちにマサさんとトミー先生に聞いた。
「もちろん、オッケーじゃよ。久々に会えると楽しみにしていたようだしのう」
「というか、まだ個人戦は始まっていないのに、もう終わったあとのことを考えているのか?」
2人は笑いながらそう答えた。マサさんの言う通り、二階堂は試合より先輩のことで頭がいっぱいのようだ。
「ご、ごめんなさい……!」
「ああ、いや、責めてるんじゃなくてだな」
「試合、どうでもいいとかじゃないです……」
「わかってる! そんな風に思ってないのは、わかってるぞ」
「マサさん、二階堂を甘やかしすぎっすよ」
「ちょっとかっちゃん、それ今言っちゃダメっしょ」
マサさんは以前、"二階堂はなんだか危なっかしいから、つい世話を焼いてしまう"と言っていた。おれはそれを聞いて、確かにそうだなと思った。
*****
「お兄ちゃんのとこ、行ってきます!」
「おう、気をつけろよ。ああ、男子の団体戦までには戻ってくるようにな。何かあったら連絡しろよ? ちゃんとスマホは持ったか?」
「マサさん! 二階堂も子供じゃないんだから、ほっといたって戻ってくるって!」
個人戦を準優勝で終えた二階堂は、試合結果なんてそっちのけで二階堂先輩のもとへ向かって行った。
やたら心配するマサさんとそれに呆れる海斗。もはや見慣れた光景だ。
「オレいっつも思うんだけど、これ、娘バカな父親と自立させたい母親って感じっしょ」
「なるほど……的確な例えだ。ーーていうか、スマホ忘れてる!」
七尾の秀逸な例えに感心した静弥が忘れ物に気づいたが、二階堂はすでに見えなくなっていた。
……やっぱり、マサさんによる管理が必要なんじゃないかな。