@ 合宿-1
【マサさん視点】
合宿先で鉢合わせた辻峰高校弓道部の選手たちは、どうやらうちの二階堂とも面識があったらしい。
流派の関係もあるから、と半ば強引に兄に連れて行かれた二階堂は、やはりと言うべきか嬉しそうだった。
俺も懐かれていると思っていたが、兄には勝てず……悲しいことに、部員たちから非難を浴びていた。主に女子から。
「ちょっとコーチ! 愛生ちゃんはうちの子じゃないですかー!」
「辻峰には指導者がいませんよね? 流派は違えど、基本は同じはずです。今までも滝川コーチに教わっていましたし。いいんですか?」
「お兄様がいらっしゃるとはいえ、男性ばかりのところに愛生さんを行かせるなんて心配ですわ……!」
「それはオレも心配! 食われちゃうっしょ!」
女子たちは色々と反論したが、なんだかんだで白菊の意見が全てな気がする。七緒も便乗してきた。
「まあまあ、みんな落ち着け。何も二階堂を見捨てるわけじゃないんだ。出稽古だと思って、少し行かせてみてもいいだろ。向こうの部員とも知り合いのようだしな」
「出稽古って……相撲かよ」
海斗のツッコミはともかく、二階堂の辻峰合流は本人の強い希望もあるからなあ。
辻峰はすでに射込みの準備を始めている。
二階堂は兄にべったりかと思いきや、意外と単独行動だ。兄はしっかり見ているが。
「愛生ちゃん、地方大会以来だな。元気してた?」
「あっ、ふ、不破先輩! えっと、元気です……」
「そっかそっか」
辻峰の二的ーー不破に話しかけられて、二階堂は照れた様子だ。頭を撫でられていると、二階堂兄がとっさにそれを阻止しにくる。
「おい不破、触んな」
「愛生ちゃんは嫌がってねーよ?」
「お前が先輩だから遠慮してんだよ。ーー愛生、嫌なときはちゃんと嫌って言うんだぞ」
「嫌、じゃない。不破先輩は……大丈夫」
二階堂は頭から離れかけた不破の手を掴んで引き留めた。それを見て辻峰の男子たちは動きを止める。
「……二階堂、愛生ちゃんを俺にくれ」
「えー、不破ずるい。俺も妹かペットに欲しいのにー」
「あ、じゃあ俺も。そういう流れっぽいし」
「俺もぜひお友達に! そして、できれば風舞の女子ともーー」
二階堂はどうやら年上にモテるらしい。
「はいはい、愛生は俺のなんで。いいから練習始めますよ。ーー樋口先輩は後で話がありますからね」
「何でー?」
ペットなどと不穏な発言をした先輩に、二階堂兄はそう忠告してから練習を始めた。