地方大会-2
「対戦することになっちったね」
気さくな感じで湊に声をかけた二階堂。
それに対して湊は先ほどの辻峰の射への感想で返す。
二階堂は静弥にも声をかけたが、社交辞令で返答した静弥はそういえば、と話を変えた。
「舞田先輩が予備の矢を持っているようですけど、顧問やコーチはいらっしゃっていないんですか?」
「……まあね」
「うちは実質、二階堂と愛生さんがコーチと顧問だからな」
静弥の質問にすぐに答えなかった二階堂の代わりに、不破がそう教えた。
「顧問はいるけど、弓のこと何も知らない人だからね。対応とか覚えてもらうのも手間だし、自分でやった方が早いから。あ、運営には許可取ってるよ」
愛生もいつものローテンションで答える。
「悪いな、試合終わりに」
「今さら何言ってんの。ていうか、私は君らの試合のために来てるんだから、そもそも個人戦はおまけなの」
「おまけなのに、優勝するほど頑張ったんだ? 頑張り屋さん〜、えらいえらい」
「だって二階堂が勝てって言うから。ね?」
樋口の言葉に笑って返した愛生は、二階堂の方を見る。
「いやあ、俺が言わなくたって先輩は勝ってたでしょ」
「まあね。――じゃ、みんなも勝ってきてね。あとで"ご褒美"あげるから」
「マジか。勝つしかねえな……」
愛生の"ご褒美"に食いついた不破が呟くと、二階堂は不破の脇腹を肘で突いた。わりと強めに。
*****
辻峰と風舞の試合は、辻峰の勝利で終わった。
射場後方で見守っているマサさんの表情は険しく、やれやれといったように額を押さえて出口に向かう。
「風舞、調子悪いんですか?」
「ん? ああ、辻峰の……」
「3年の舞田です」
「俺は風舞コーチの滝川だ」
先に退場していた愛生は、通りがかったマサさんに声をかけた。
嫌味とも取れる物言いだったが、愛生にそんな意図はない。マサさんもそれを察して普通に返答する。
「辻峰は調子良さそうだな」
「いつもこんなもんです。まあ、ご褒美あげるって言うと、みんなやる気出しますけど」
「どんなご褒美をあげてるんだ?」
「……それ、言わなきゃだめですか?」
「……大丈夫なんだろうな?」
愛生の意味深な躊躇い方に、一瞬よからぬ光景が頭をよぎったマサさんだったが、これはいかんと思考を切り替える。
「何を想像してるのかわかりませんけど、手作りのお弁当とかお菓子とか、ささやかなプレゼントですよ」
「! なるほど。それは確かにご褒美だ」
高校生らしい健気な内容に、マサさんは密かに胸をなでおろした。