合宿1日目-風舞女子と-1
弓道部の夏合宿は、春とは違って県外に泊りがけ。
今回は男子の全国大会に向けての練習がメインだけど、私たちだってサポートするだけで終わる気はない。
しかし、そんなワクワク感とともに訪れた先の宿には、なぜか辻峰高校の選手たちがいた。
施設側のミスで弓道場の予約をダブルブッキングしてしまったらしく、滝川コーチと辻峰の人たちが話し合った結果、合同で使うことになったみたい。
辻峰の選手は全員で6人と、うちよりも部員が少なかった。しかも顧問の先生は名ばかり顧問で弓道に詳しくないという。
見た目もだけど、雰囲気からもなんとなく圧力を感じる人たちだなあと思っていたら、1人だけ女子がいた。
「そういえば辻峰って、女子1人なんだね」
「ああ、鳴宮の中学時代の先輩だっけ」
「確か、地方大会では個人戦で優勝されていましたよね」
「そうそう! すっごい綺麗な射だったよね」
女子部屋に集まって荷物を置き、この後の練習に備えて着替えなどを済ませつつ、辻峰の話を振ってみる。
大会で見かけたときはポニーテールで凛とした雰囲気の人だと思っていたけど、さっき見たときは髪もおろしていたしメガネをかけていたから、一瞬誰だかわからなかった。
「同年代で同性の弓引きって、あまり関わる機会もなかったし、話してみたいね」
「確かに!」
つい最近行われた桐先との合同練習では、桐先の女子部員たちとも仲良くなった。けどそれはそれ、これはこれだ。桐先と辻峰じゃ雰囲気も射も全然違うし。
そんな雑談をしながら弓道場に向かおうと宿の廊下を歩いていると、向かい側から弓道着姿の女性が歩いてくるのが見えた。
「あれ、風舞の。今日はよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
お互いの声が届くところまで近づくと、辻峰の紅一点――確か、舞田先輩は挨拶をしてくれた。妹尾がそれに言葉を返し、私たちは会釈をする。
「あの、どちらに行かれるんです? 弓道場は逆側ですけれど……」
「ん? ああ、忘れ物」
めっちゃ普通の理由だった。
*****
舞田先輩と別れて弓道場に着くと、辻峰の男子部員たちが何やら話している。
「やっぱりついて行くべきだった」
「何言ってんだよ。ここから部屋まではそこそこあんだから、まだ遅すぎってこともないだろ」
「二階堂、過保護すぎ〜」
もしかして、舞田先輩がまだ来ていないのを心配しているのかな。
「ごめん、お待たせ。って、二階堂どうしたの」
「愛生さんが遅いからって、心配してたんすよ、こいつ」
「そんな遅かった? ごめんね二階堂、よしよし」
「っ、やめてくださいよ」
一番焦った様子だった二階堂先輩の頭を撫でた舞田先輩。二階堂先輩の言葉は拒否しているけど、全然嫌そうに見えない。
これは……!
とっさに乃愛ちゃんの方を見ると、乃愛ちゃんも察してくれたみたいで、お互い頷き合った。
「あとで聞いてみよ」
「そ、そうですわね」
「2人とも……」
妹尾は苦笑していたけど、反対はしてこなかった。