合宿1日目-深夜
合宿初日の夜、なんとなく目が覚めた。
風舞と合宿所の共用になったことや明日の競射会のことであまり気分はよくない。
先輩の寝顔を拝もうと思って横を見ると、先輩は起きていた。というか、布団の上で体育座りをして膝に顔を埋めている。……起きてるのか?
「先輩、起きてます?」
俺が呼びかけると、先輩はゆっくり顔を上げてこっちを見てくれた。
「おきてる。二階堂、目、覚めちゃったの?」
「うん。先輩も?」
「まあね。眠れないんだよね、時々。なんか寒くてさ」
先輩はホットパンツにTシャツという薄着だが上にはもこもこしたカーディガンを着ていて、真夏の夜にしては厚着だ。それで寒いことはないと思うけど、本人がそう言うんだからそうなんだろう。
困ったような表情の微笑みを向けられて、俺はどう声をかければいいのか迷った。
「二階堂、明日も練習がんばるんでしょ? もう寝直しなよ」
「明日……」
競射会をすることは、風舞コーチとの話の中勢いで決めてしまったことだから、まだ誰にも報告できていなかった。
「あの、明日のことなんですけど……風舞と競射会をすることになりました」
「そうなの?」
「すみません。俺が勝手に風舞のコーチと話してーー」
先輩は少し驚いた表情を見せたけど、すぐに笑って許してくれた。
「いいよ。二階堂が決めたことなら、私は従うから。滝川さんに何か言われたんでしょ」
「……」
「もしかして、二階堂も褒められた?」
「え……」
なんで分かるんだろう。それに俺
「滝川さんって、ちょっと大人げないよね。私の母親のことも知ってたし、正直苦手だなって思った。けど、多分、コーチとしてはちゃんとした人だと思うよ」
「どういう意味ですか」
「信用していい人だってこと。好きかどうかは別としてね」
「……なんだよ、それ」
先輩までそんなこと言うのかよ。叔父さんだってーー。
「あ、滝川さんに教えてもらおうって話じゃないよ。うちはうち、よそはよそだし」
「……」
それから先輩は俺を見て、少し照れたような表情を見せた。
突然どうしたんだろうと思うと同時に、純粋にかわいい人だなとも思う。先輩はいつも落ち着いていて大人っぽいけど、ときたまこうして年相応というか、いじらしいところを見せてくるのがずるい。
「二階堂、あの……」
体育座りをやめて、こちらに寄ってきた。そして口を開く。
「一緒に寝たい。布団入れてくれる?」
断れるわけがなかった。
「手、出していいからね」
「じゃあ遠慮なく」
早速俺の布団に潜り込もうとしていた先輩の腕を引いて押し倒した。
「……先輩、本気かよ」
「うん。二階堂、ちゅーしよ、ちゅー」
「ちゅーって……」
「しないの?」
「する」
他の部員たちが同じ部屋で寝ている。この状況じゃキスが限界だ。そう頭では判断できているのに、獲物を捕らえた体は勝手に熱くなる。
それを無視して、先輩と唇を合わせた。やっぱり柔らかい。結局我慢なんてできずに舌を突っ込んだ。
「ん……二階堂、帰ったら続きしようね」
「……はい」
「よし、寝よ。今なら寝られる気がする」
俺が先輩と向かい合って横になると、先輩は俺の頭を胸に抱えるように引き寄せた。そして顔が柔らかい胸に埋められた。あったかくて良い匂いだ。
途端に眠気が襲ってきて、危うくそのまま目を閉じそうになる。
「先輩、腕枕」
「ん? ああ、はい」
「いや、じゃなくて。俺が枕の方」
俺の頭を一旦解放して、腕を伸ばしてきた先輩。普通男の方がすることだろ、腕枕の枕役って。
何故かキョトンとした先輩を、今度は俺が抱き寄せた。
「明日腕痺れたら、弓引けないよ」
「そんなこと気にしてたんですか。そんなヤワじゃないですよ。俺、男の子なんで」
「おとこのこ……」
何で復唱したんだ。と思っていたら、先輩は俺の背中に腕を回して抱き着いてきた。
「男の子の体ってたくましいんだね」
「っ、……先輩は柔らかいですね」
何を今さらそんなことを確かめ合っているんだよ、俺たちは。
「二階堂、跡つけていい? 服で隠れるとこ」
「俺もつけていいなら」
「いいよ」
先輩はそう言うと同時に俺のTシャツの首元を少し引っ張って、鎖骨あたりに吸い付いた。
「……あ。ふふ、これ、暗くてついてるかわかんないわ」
「先輩って、変なところでおっちょこちょいですよね」
「ひど。ほら、二階堂もつけて」
「……もうそれ誘ってますよね。俺、我慢してんのわかってます?」
「え、ごめん、そんなにだった? 一回抜く?」
「……どうやって」
「トイレ行こ。口でしてあげる」
「…………」
俺はあっさり頷いた。先輩に誘われて、我慢できるけねえだろ。