不破の先輩だったら 高校生編
【不破視点】
愛生と同じ辻峰に進学してすぐに知ったのは、弓道場がないということだった。
愛生は弓道部に入ったと聞いていたから、まさかの状況だ。
愛生と同じ高校に入ることは最初から決めていたから学校見学なんかも来なかった。文化祭は見に来たことがあるが、学校を見るんじゃなくて愛生に会いに行っただけだったしな。
入学式翌日の今日から授業が始まる。愛生には昼休みに会いにいくとして、とりあえずクラスの奴らと話していた。
「なあ、アレなんだろうな。校庭の端に畳立ててあっけど」
話していたクラスメイトの1人が窓の外を見て口を開く。
「射場だよ」
「シャジョー?」
どうやらここに元弓道部員はいないらしい。
*****
昼休み。愛生のいる2年3組に足を運んでみた。
「愛生!」
人もまばらな教室で、愛生は男子2人と一緒に弁当を食べていた。黒マスクのイケメンと何故かゴム弓を引っ張っている小柄な先輩だ。
ドアのところから呼びかけると、3人は俺の方を見て、各々驚いた表情を見せた。
「晃士郎。どうしたの?」
「一緒にメシ食おうと思って。でも友達と食ってたのか」
「あー。この2人、弓道部」
愛生に紹介された2人は荒垣さんと樋口さんというらしい。弓道は初心者で愛生に教わっていたとか。
俺のことは愛生が紹介してくれた。幼馴染だと。
「不破も一緒に食べるー? ボクと荒垣は食べ終わってるけど」
「いいんすか?」
荒垣さんと樋口さんが頷いたのを確認して、愛生さんの前の席に座る。
「お、愛生の卵焼きじゃん」
「食べる? ん、どーぞ」
愛生は平然と自分の箸であーんをしてくる。愛生は絶対モテるから、こういう周りの奴らへの牽制は欠かせない。まあ、荒垣さんと樋口さんは大丈夫そうだけど。
「ボクも〜」
「いいよ。次ね」
「じゃあ俺も」
「ごめん、卵もうない。ウインナーでいい?」
「なんでもいい。……タコさん、舞田が作ったのか?」
「? そうだけど」
「いいな。なんか健気で」
「え、ありがとう?」
自分で食べる弁当に入れるウインナーをわざわざタコさんウインナーにしている愛生はめちゃくちゃかわいい。
「晃士郎は弓道部入るの?」
「ああ、そのつもり」
「舞田の幼馴染ってことは、経験者か」
「俺は中学からっすけどね」
なんだかんだで先輩たちとも仲良くなった。
*****
それからしばらく経ち、弓道部は新入部員3人を迎えて計6人になった。
「不破、先輩にくっつきすぎだ。離れろよ」
部室に来るなり小言を言い始めたのは、同級生の二階堂だ。
俺は椅子に座った愛生の後ろから手元のプリントを覗き見ていた。
「や、俺らずっとこの距離だし」
「え、そうだっけ」
二階堂は何故か最初から愛生のことを知っていた。理由を聞いても教えてくれないし、愛生もわからないという。怖。
ただひとつわかるのは、二階堂も愛生のことが好きだということだ。
「あ、そうだ。二階堂、今度の大会のことなんだけど」
愛生は俺らの攻防には我関せずといった感じで、席を立って二階堂の方に行ってしまう。
部長は荒垣さんだけど、この部を仕切っているのは実質二階堂と愛生。だから大会なんかの手続き系の話をよく2人でしている。
しょうがないから愛生の座っていた椅子に座り、スマホを眺めていた。
そこに二階堂と同じく同級生の太田黒がやってくる。さっきまでしていた筋トレはひと段落したらしい。
「不破は舞田先輩と仲がいいんだな」
「仲いいっつーか、幼馴染」
「そうだったのか! しかしあんな……」
ちょっと照れた様子の太田黒。言いたいことはなんとなくわかる。あんなかわいい女子と……みたいな話だろう。
「よく平気であんなにくっつけるな」
「いやいや平気じゃねーよ? ムラムラしまくりだって」
「!」
意外とウブな太田黒をからかっていると、話を終えた愛生が戻ってきた。
「あ、椅子とられた」
「ここ座っていいぜ」
別のパイプ椅子を広げようとしていた愛生に、俺のひざを叩いて勧める。
「えー……まあいっか」
「えっ」
さすがに断られるかと思ったら普通に乗ってきた愛生。くそ、尻が柔らけえ。
その横で太田黒は何の関係もないのに顔を赤くしている。なんでだよ。
「かった」
「俺は柔らけえけど」
愛生の腹に腕を回して、さっきと同じ手元を覗き込んだ。愛生が持っていたのは県大会の申込書だ
「晃士郎、立ち順どこがいい?」
「え、二階堂が決めるんじゃねーの?」
「うん。でも希望くらいは聞いておこうかと。あ、太田黒も」
「ウ、ウス!」
「おー、気合い入ってんね」
多分違うと思う。