@ 矢場い-1
【湊視点】
のりりん? というアイドルが夜多神社に撮影に来るということで、マサさんはそのアイドルの情報を求めていた。
風舞には詳しい人がいなかったけど、桐先の上級生にファンがいたはずと七緒が思い出す。
そこでおれから愁に連絡を取り、その佐瀬先輩という方と桐先の近くにあるカフェで会うことになったんだけど……。
「何で全員集合してんだよ」
小野木は嫌そうな顔でそう言った。
てっきり愁と佐瀬先輩しか来ないと思っていたら、桐先の団体戦メンバー5人と愛生が参加していた。
「愛生まで、何でいるんだ?」
「愁に誘われた。イケメンの頼みは断らないから私」
「まずかったかい? 愛生は湊とも親しいし、俺より人付き合いが上手いから、いたほうがいいと思ったんだけど」
微妙な顔をする静弥に愁はいつも通り答えた。というか、愛生はいつも通りすぎる。
「あっ、ねえねえ遼平、このパフェおいしそうじゃない?」
「どれどれ? ほんとだ! 俺これにしよ!」
「じゃあ私こっちのにするから、後で一口交換しよ?」
「ええっ!? お、俺はいいけど、その……」
「モジモジしてんじゃねえよ!」
いちゃつき始めた愛生と遼平、それを見る愁の表情は途端に険しくなった。そして小野木が遼平の背中を叩く。
「まあまあ、かっちゃんも何か頼んで交換してもらったら? 愛生ちゃん、オレも交換したい!」
「おっけー。愁は何か食べる?」
「俺は遠慮しておくよ」
何でだよ。羨ましそうに見てたのに。
「「俺たちはーー」」
「あ、スガセンとスガマンは呼んでないでーす」
「「何で!?」」
ばっさり切られた双子を見て小野木は吹き出した。
「そこのメンタル弱弱くん、俺らのこと笑ってるけど」
「お前も誘われてなかったよね」
「あぁ!? 誰がメンタル弱いって!?」
「こら竹早、ファンを差別するな! 偶像としての自覚が足りん、のりりんを見習え!」
佐瀬先輩まで意味のわからないことを言い出した。
「愛生が偶像? 休日はろくに着替えもせずぐうたらしてる愛生が……?」
静弥は驚愕の表情を見せた。おれもその姿を知っているから正直同じ気持ちではあるけど、そんなわざわざ声に出さなくても……。
とはいえ、人当たりが良くて世渡り上手な愛生は中学時代から偶像というか、愁とよく一緒にいたのもあって高嶺の花的な扱いをされていた。実際はただの面食いなんだけど。
「今どきの偶像はそのくらいのギャップがないと〜」
愛生はそんな暴露など気にしていないのか、いつの間にか運ばれてきていたいちごパフェを食べていた。
「はい遼平、いちごあげる」
「いいの!? じゃあ俺のメロンは愛生ちゃんが食べてよ」
カップルのようなやり取りを平然としている2人。
しかし、愛生と遼平の差し出したスプーンは両方とも双子に奪われた。
「千、万、そんなにパフェ食べたかったの?」
愛生が意外そうにそう聞くが、双子は不機嫌そうにフルーツを頬張るだけで答えなかった。
収拾のつかない桐先の面々。このメンバーをまとめている主将は一体何者なんだろうかと様子を伺うと、やや困り顔ながらも微笑んでいた。
「まあまあ。とりあえず、風舞の皆さんの用件を聞きましょう」