@ 矢場い-2
のりりんが夜多神社に撮影に来るから情報が欲しい。それを伝えるのにずいぶん時間がかかってしまったが、おれたち11人は夜多神社に向かっていた。
「風舞のコーチってどんな感じなの? 静弥が全然会わせてくれないから、見たことないんだよね」
「うちのコーチ、マサさんはなんていうか……とりあえずイケメンっしょ」
「マジか。佐瀬りん先輩、 急ぎましょう!」
愛生は佐瀬先輩と共に階段を駆け上って行った。
「すごい勢いだ……」
「信仰対象の違いはありますが、思考はかなり似てるんですよね、大悟と愛生さんは」
本村先輩には見慣れた光景なのか、苦笑するだけだった。
ともあれ、おれたちも神社までの階段を上りきる。そこには先に行っていた佐瀬先輩と話しているマサさん、そして、佐瀬先輩の後ろに隠れている愛生がいた。
「愛生、大丈夫かい? 何があった?」
マサさんから隠れるようにしていた愛生を見た愁はすぐに駆け寄った。
「愁! だ、大丈夫……イケメンすぎて目が潰れただけ……」
「風舞のコーチの顔がタイプだったみたいだ」
「そうなのか? なんだ、よかった。怖がらせちまったのかと思ったよ」
「イケメンな上に、優しい……!? 静弥! なんで紹介してくれなかったの!?」
「そうなるからに決まってるだろ」
「ん? 静弥の知り合いか?」
「滝川さんが知る必要はありません」
静弥はにっこりと笑ってマサさんをあしらった。いや、双子だって隠し通すのは絶対無理だろ。
「ふぅ……。取り乱してしまってすみません。竹早愛生と申します。双子の兄の静弥がいつもお世話になってます」
「すごい変わり身っしょ!」
「愛生さん、切り替え早いですから」
他所行きの笑顔でマサさんに挨拶をした愛生。マサさんも一瞬驚いたみたいだったけど、すぐに何か思い出したのか手を叩いた。
「ああ、見覚えがあると思ったら、県大会で個人優勝してた子か! 静弥の妹だったとはなぁ」
「えっ、にににに認知されてる……!?」
「わかるぞ竹早」
マサさんに覚えられていたことに驚く愛生。そして何故か共感する佐瀬先輩。
取り残された愁の背中には哀愁が漂っていた。いや、ダジャレじゃなくて。
*****
佐瀬先輩の先導で弓道場に移動したおれたちは、"あのTシャツ"を着せられていた。
「いいねぇ、一体感が出るねぇ」
おやじくさいコメントと共に写真を撮るマサさん。
制服を着ていたおれたちはそのままでは弓が引けないということで、こうなったわけだけど。
全員揃って
「愛生、嫌じゃないのか、これ?」
「うん。変T、結構好き」
「ああ、そういえば着てたな、変な柄のTシャツ」
"ペンギン"の文字の上にカニのイラストが描かれたやつとか。休日に竹早家に行ったときに見た覚えがある。
「気に入ってくれたか! 欲しかったら1枚くらいやるぞ」
「ほんとですか!? ほしいです!」
「愛生……やめなよみっともない。それにスカートが短すぎる」
静弥はものすごく嫌そうな顔をしていた。というか、スカートって……。
「静弥は私のお父さんか! それにスカートが短いんじゃなくて私の足が長いだけだから。ていうか下にスパッツはいてるし、ほら」
「ちょっ、ストップストップ! うちの子たちには刺激が強いっしょ!」
愛生がスカートの裾を少しめくって静弥に見せると、七緒が制止した。七緒の後ろには顔を真っ赤にした遼平と小野木がいる。
「双子っていっても、性格は似てないんだな」
マサさんが2人を珍しそうに眺めながらそう言った。
「静弥と愛生は、なんていうか、鏡写しみたいな感じなんだ」
「ああ、ミラーツインってやつか?」
「うん。利き手も逆だし、つむじも逆巻きだった」
「へえ。でも、射はなんとなく似てた気がするな」
「確かに。静弥は嫌がりそうだけど」
「で、湊はあの子と付き合ってるのか?」
普通に雑談していたのに、マサさんが急に余計なことを言い出した。
「そんなわけないだろ。静弥も愛生も親友だけど、なんていうか、家族みたいな感じだし」
愛生はおれと静弥にはあまりべたべたしてこないし、多分同じような認識だろう。
「てか、愛生のことが好きなのは愁だし」
「そうなのか?」
つい勢いで言ってしまったが、まあ周りにはかなりバレているから大丈夫なはずだ。