@ 荒垣・樋口と1年目-7

12月下旬。2学期の終業式が終わった。

この日は快晴で、比較的暖かい。3人はいつも通り部室に集まっていた。

「今年も終わりだねぇ」

「なんか、早かったな」

「そうだね」

部活動は昨日までで終了とされていたため練習はできないが、なんとなく集まる習慣ができている。

「宿題めんどくさいな〜。舞田の写していい〜?」

「いいけど、得意教科持ち寄ってお互い写した方が効率よくない?」

「舞田って、意外とそういうこと言うよな」

「だってめんどくさいじゃん、宿題」

「だよねぇ。おれはねー、数学と物理かなぁ、得意なの」

「俺は国語とか英語だな。しいて言えば」

「私は化学、生物あたり。社会できる人いないね」

「そこは総力戦で」

3人は冬休みに勉強会という名の宿題写し合いの予定を立てて、解散することにした。愛生はこの後バイトだ。

「そういえば、舞田、何のバイトしてるの?」

「え、まあ……喫茶店」

「どこの店? 行っていいか」

「やだよ、メイド喫茶だし。このへんで一番時給いいんだよね」

「「メイド喫茶!?」」

荒垣と樋口は声を合わせて聞き返した。まさかこの基本テンション低めな愛生が、愛想第一な接客業をやっているとは思っていなかったのだ。

「あー、でも、メイド服似合いそう」

「確かに。やっぱ行きたいんだけど、だめか?」

「だめ」

「舞田〜、頼むよ〜、このとーり」

樋口はあざとく上目遣いで、必殺のおねだりを繰り出した。樋口は愛生より背は高いが、少し屈めばまあいける。

「……」

う、と言葉に詰まる愛生。愛生も何故樋口のおねだりに弱いのかわからないから、対策の取りようもなかった。1つわかるのは、断ったら罪悪感が湧くということだ。

「お店は自分らで探してね。来たら接客してあげる」

愛生は諦めた。

*****

愛生のバイト先は辻峰の最寄り駅から2駅離れた近場にある。都会のようにメイド喫茶はそう多くはないため、探そうと思えばすぐに見つかる店だった。

「おっ……かえりなさいませ、ごしゅじんさま……」

数日後、得意げな表情を浮かべる荒垣と樋口を、愛生――もといメイドの"まいまい"は出迎えることとなった。

*****

「舞田、プロだったな」

「うん。すごい、メイドさんだった」

初めてのメイド喫茶を訪れた帰り道、荒垣と樋口はその良さに目覚めかけていた。

「「通うか……」」

メイド喫茶の物価は高い。貯金しよ、と決意を固めた2人であった。

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