番外編:こんな無限列車編はいやだ

※本編との繋がりはありません。
※無限列車編で無限城に飛ばされてたらの話。
※シリアス、バッドエンド、微グロ注意。


【明野視点】

琵琶のような楽器の音が聞こえたと思ったら、立っていたはずの地面がなくなって落下した。

目の前の猗窩座も驚いたような表情をしている。猗窩座の仕業ではないようだ。

落下する中で、その空間をなんとか観察する。無限に続く城のような、果てのない広大な空間だった。

着地できる場所を探していたら、猗窩座に腕を引っ張られて胴を抱えられた。

そして、抱えられたままどこかの床に着地し、その場に放られる。

「……おい琵琶女。なぜこいつも落とした」

琵琶女、と呼ばれた相手はどこにいるのかわからない。猗窩座の言葉にも返事はなかった。

だが、代わりに聞こえてきた声があった。

「俺が鳴女ちゃんに頼んだんだ」

どこからともなく突然現れたのは、上弦の弐――童磨。

「久しぶりだねぇ、明野ちゃん。相変わらず美味しそうで何よりだよ」

「失せろ」

意外にも、猗窩座が私の気持ちを代弁してくれた。いや、もちろんそんなつもりはないのだろうけど、猗窩座は本当に童磨のことが嫌いらしい。

「そう冷たいことを言ってくれるな、傷ついちゃうぜ」

思ってもいなさそうな口ぶりでそう言った童磨は、私の前に立ち、いつかのように目線を合わせて屈んでくる。

「猗窩座……刀を返して」

「別に構わんが、こんなものでどうにかできると思っているのか?」

猗窩座に折られた日輪刀。その柄は未だ彼が握ったままだった。

上弦の弐と参を相手に折れた日輪刀で、いや、たとえ万全の状態だったとしても、1人で戦うことなど到底不可能だとはわかっている。

……多分、私はもう生きては帰れない。

素直に差し出された日輪刀を、鞘にしまった。これは隊士としてのただの矜持だ。

「私をここに落とした目的は何」

「食べるためだよ。それ以外にあるかい?」

「私はきっと美味しくない」

「そうかな? その筋肉は柔らかそうだし、肉付きも前より良くなっていると思うけど……」

「そうじゃない。お前は女しか食べないと聞いてるけど、私の体はとっくに男の精にまみれているの。食べたところで、男の味がするだけ」

「えー……」

童磨はあからさまに残念そうな表情を見せる。

「私の旦那様はまぐわうのが大好きでね。毎日毎日、それこそ今朝だって、何回も精を流し込まれているの」

かなり話を盛ったけど、絶対に食われたくなかったから、どうにか童磨の興味を失わせたい。

猗窩座まで嫌そうな顔をしているのはなんだかむかつくが、好意的に取られるよりはましだろう。

「そっかぁ……ん−、残念。確かに、男の匂いがするね。それもとーっても濃い」

私の下腹に顔を近づけてくんくんと匂いを嗅ぐ童磨は、端的に言って気持ち悪い。童磨じゃなくたって気持ち悪いが。

「おい、食う気がないならさっさと失せろ」

「え〜、そんなこと言って猗窩座殿、明野ちゃんをどうする気?」

「鬼にするに決まっているだろう」

「へぇ……。その体じゃ俺はどうせ食べられないし、かといってただ殺すのはもったいない。いいね、鬼になってもらおう!」

童磨の言葉を最後まで待たず、私は一度逃げようとした。だが、上弦の鬼2体相手に、そう簡単に逃げられるわけもなく。

「おっと、どこへ行く気だい? 自力で出られる場所じゃないぜ。大人しくしていようね」

いとも簡単に、床に組み伏せられた。

「さあさあ、この血を残さず飲んでくれたまえ! ――ああ、そうだ。良いことを思いついた! 子を成す器官に、直接流し込んであげよう!」

抵抗する間もなく、腹に童磨の拳がめり込み全身に衝撃が走る。

「あ"っ、がっ……はぁっ、ぐぅ……っ!」

何か液体を――違う、鬼舞辻無惨の血を、流し込まれた。

嫌だ、嫌だ嫌だ――!

抗えなかった。人として在ることを、保てない。全身に鬼の血が巡っていく。

「ひ、ぎぃっ、ごめ、なさ……ぎゆ、う、ごめん、なさい……」

最期に見えたのは、歪んだ鬼の笑顔だった。

*****

明野が息絶えた後、その変化を見守る2体の鬼。

「最後に呼んでいた名前……明野ちゃんの旦那様はギユウという名なのかな? ギユウくんには悪いことをしたが、彼がこんな体にしなければ、俺がちゃんと食って、救ってあげられたのにね。気の毒だよ」

「……」

「猗窩座殿、どこに行く気だい?」

「明野は呼吸の使い手、雷の柱だ。鬼になるには時間がかかるだろう。待つ間、ただ見ている理由もない」

「ふ〜ん……じゃあ俺は見ていようっと。明野ちゃんが鬼になって目覚めたら、俺が手取り足取り教え込んでやるんだ」

「ふざけるな。あの方の指示を待て」

そう言って、横たわる明野の傍らに、童磨とは距離を取って座った猗窩座。

「将来有望な後輩ができたと、黒死牟殿にもあとで教えて差し上げなければ」

「必要ないだろう」

「あっ、そうだった! 見えてるんだった!」

童磨は満面の笑みを浮かべ、猗窩座は舌を打った。

*****

鳴柱・時雨木明野が行方不明となった数か月後。

雷の呼吸を使う女の鬼の目撃情報が、鬼殺隊にもたらされた。

水の呼吸を使う剣士には、決して危害を加えなかったというその鬼。

間もなく、産屋敷耀哉によって、水柱・冨岡義勇にその討伐命令が下されることとなる。

後に冨岡が単独でくだんの鬼――上弦の肆をほふったことは、柱としての実力を示す結果となった。

だが、その頸を斬る際に用いた技が、伍ノ型であることを知る者はいない――。

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