過去編:胡蝶姉妹
【しのぶ視点】
私たち姉妹を救ってくださった悲鳴嶼さんが、任務先で女の子を助けたという話を屋敷にいる隠から聞いた。
きっと私たちのように、鬼に家族を殺されたのだろう。
それからその保護された女の子は同じ屋敷にいるようだったが、姿を見たことはなかった。
どんな子なのだろう、という興味はあったものの、人の屋敷の中を無遠慮に探し回るほど礼は欠いていない。
カナエ姉さんは、私がその子に興味を持っていることを察していたのだろうか。
「悲鳴嶼さん、先日助けられた女の子は、お元気なのですか?」
その子に会えることになったきっかけは、カナエ姉さんの言葉だった。
「ああ、もう傷も癒える頃だろう。……少し、話をしてみないか? 同年代、同性同士のほうが、あの子も気が休まるだろう」
その日のうちに、私たちは保護された女の子に会うことになった。
悲鳴嶼さんに案内されて来たのは、日当たりの良い南の部屋だった。
障子は開かれており、中を覗くと、
「じゅうはち……じゅうく……にじゅう……」
小さな女の子が腕立て伏せをしていた。……何故?
「明野、少しいいか?」
「行冥さま?」
まったく動じていない悲鳴嶼さんが声をかけると、明野と呼ばれた女の子は姿勢を正してその場に正座をする。
続いて、予想外の光景に固まっていた私たち姉妹を見て、首を傾げた。
かわいらしい顔立ちで、こじんまりとした佇まいだった。年は同じくらいか、少し下のように見える。年のわりに落ち着いた態度は、なんとなく、育ちがよさそうだ。
「鍛錬もよいが、今日は少し話をしてみないか」
「? はい」
明野は突然の誘いに戸惑いつつも、素直に頷いた。
「カナエ、しのぶ。この子は時雨木明野という。仲良くしてやってほしい」
「はい」
カナエ姉さんの返事を聞くと、悲鳴嶼さんは任務の準備があると言って行ってしまった。
「明野ちゃん、こんにちは。私は胡蝶カナエよ。こちらは妹のしのぶ。よろしくね」
「時雨木明野です。よろしくお願いします」
明野はあまり抑揚のない声で名前を発すると、小さく頭を下げた。
「会話する意思はあるのね」
「ふふ、嬉しいわ」
あまりの無表情に対して挨拶は普通に返してきたため、ついそう言葉を漏らしてしまったが、特に気にした様子はない。
「明野ちゃんは、悲鳴嶼さんに助けていただいたと聞いているわ」
「はい」
「私たちも同じなの。同じ屋敷に身を置く者同士、仲良くしましょう?」
明野は躊躇いつつも、小さくうなずいた。
「……鬼がきたのですか?」
「ええ。私たちは家族を……。でも、今はこの通り元気よ」
「私も、住んでいた村に鬼がきて。私以外全員死んでしまいました」
「そうだったのね」
「おふたりは、鬼殺隊に入るのですか?」
明野は、案外よく話す子だった。
相変わらず無表情だし、声に抑揚もなく淡々としているけれど。
話をする中で、明野が鬼殺隊に入って人を探したいということを聞いた。
古い友人で、その人は明野よりも先に身内を鬼に食われ、その後すぐ姿を消したという。
確証はないが、きっと鬼殺隊にいるだろうと。
「私たちのほうが先に入隊するでしょうし、その方がいないか探してみましょうか?」
カナエ姉さんの提案は、意外にも断られた。
「いえ……自分で探します。ありがとうございます」
「そう? あら、もしかして、そのお友達は男の子かしら?」
「!」
その言葉で、明野の表情が初めて崩れた。
"なんでわかったの!?"とでも言うように、驚きの表情を浮かべている。
「もう、先に見つけたって、明野ちゃんの好い人を取ったりしないわよ」
姉さんがくすくすと笑うと、明野はぶんぶん首を横に振った。
「からかわないでください……」
困り顔になった明野に、姉さんは軽く謝って、微笑ましそうに見つめる。
探している"友人"が男の子であることも、好い人であることも否定はしなかったな。
……別に興味はないけれど、それらしい人がいないかくらいは、気にかけてあげようかしら。