×相談所 〇診療所
「冨岡くん、ここは相談所じゃないのよ?」
「? 知っている」
今朝の話を胡蝶に報告し終えた冨岡は、一仕事終えました、みたいな顔をしていた。
胡蝶から見れば、いつもの無表情であったが。
蝶屋敷に来るなり話し始めた冨岡に、胡蝶はかなり驚いていた。この人はこんなに喋ることができたのか、と。
「……それで、明野は今どうしているの?」
「寝ていると思う。どうすれば、一緒に寝られるだろうか」
「同居の目的を忘れてないかしら?」
「覚えている。だが、正直に言えば、昔を思い出すことよりも、……」
「今の冨岡くんに惚れてほしいのね!?」
言い淀んだ冨岡を見て、胡蝶はすかさず言い切った。
深く考え出すとこの会話が終わらないと思ったからだ。
「明野のためにも、もちろん応援するけれど」
「! 本当か」
「気を引きたいなら、贈り物なんてどうかしら。明野は結構素直に喜んでくれるはずよ。ちなみに、おすすめは櫛か簪ね」
「わかった。では失礼する」
小さく頭を下げて、冨岡は蝶屋敷を去って行く。
その後ろ姿を見送ると、胡蝶は妹のしのぶに声をかけられた。
「姉さん、どうして水柱に協力するのよ」
「もちろん、明野の幸せのためよ」
「あの人が明野を幸せになんて、できるようには見えないけど」
「ふふ、しのぶは寂しいのね」
「もう! そうじゃないってば!」
明野は人気者ね〜、と、頬を膨らませるしのぶを見て胡蝶は微笑んだ。
*****
「明野、ここは相談所じゃないのよ?」
「精神的に参りそうだから、診察くらいしてほしいよ」
昼過ぎに蝶屋敷を訪れた明野は、今朝方の冨岡と同じく胡蝶を頼った。
その話朝にも聞いたな、と思った胡蝶だったが、ひとまず冨岡との生活にについて聞いてみることにする。
「冨岡くんはどう? うまくやっていけそう?」
「どうだろう。昔のことを思い出してほしいと言うわりに、その話は全然してこないし、距離感はおかしいし、お茶はこぼすし、食べかすつけてるし。よくわかんないよあの人」
「何よもう、明野も気になってるんじゃない」
「そりゃ気にもなるよ。面と向かって"お前に恋をしている"とか言ってくるんだから」
「あらあら〜、なんて答えたの?」
「答えてないよ。向こうも言いたいだけみたいだったし。何か勘違いでもしてるんじゃないかな」
明野の言葉を聞き、胡蝶は溜息を吐いた。
「何、不満そうだけど」
「もう少し、冨岡くんのことを殿方として見てあげたらどうかしら。まあ、一緒に寝るかは別として」
「……なんで」
思いのほか胡蝶が冨岡に肩入れしていることに気づいた明野は、少し拗ねたように聞き返す。
「私はね、冨岡くんと明野なら良い関係を築けそうだと思っているのよ。彼、今まで言い寄って来た男とどこか違うと思わない?」
「そう思うなら、カナエが冨岡くんと――」
少し頭にきやすい明野も、カナエには今まで屋敷に住まわせてくれていた恩があるため、きつい言い方をしないように気を付けてはいた。
今回ばかりは徹底的に冨岡の味方をするらしいと確信した明野はつい語気を強めそうになるも、自分で言っておいてその内容に不快感を憶えそうになり、言葉を止めた。
そして、明野のそんな考えを胡蝶はお見通しであった。
「明野ってば、やっぱりちょっと単純ね。心配になってきたわ」
「はぁ、わかってるよ」
「冨岡くんに好きって言われたからって、明野まで好きになっちゃったの?」
「わかんないよ、恋とかしたことないし」
「じゃあ、私と冨岡くんが一緒に寝ていたら、明野はどう思う?」
「殴る。ちょん切る」
「いや、あの、行動じゃなくて、気持ちを聞いてるのよ?」
「不快!」
そう言い切った明野に、胡蝶は必死で表情筋を制御し、にやけまいと努力した。