夫婦
柱合会議が中断された後。
蝶屋敷にて諸々の検査を終えた明野は、寝台に横たわっていた。
すぐ横の椅子には、先ほど刀身を鷲づかみにした手に包帯を巻かれた冨岡が座っている。
「冨岡くん、ごめん。さっきは、気が動転していたよ」
「謝るな、らしくもない」
「はは、私だって、悪いと思ったら謝るよ」
ふぅ、と息を吐いて明野は目を閉じる。少しめまいがしたが、静かな会話を重ねているうちに、それは消えて行った。
「大丈夫か?」
「うん。今はだいぶ落ち着いた。まあ、前からこの症状には波があったから、また悪化するかもしれないけど」
「……すまない。お前の不調に、気付けなかった」
「いいよ。私も隠してたんだし、カナエも気づいてなかった。うまくできていたはずなのに、お館様には通用しなかった。正直驚いたよ」
不調を隠されていたことには納得いかなかったが、やはり自分では不甲斐なかったかと、冨岡の表情は沈んでいく。
「それより、冨岡くん。きみは私とどうなりたいのかな」
「どういう意味だ」
「文字通りだよ。きっと私は身籠っている。だとすれば、きみとの子だろうね」
「! そうか……」
「はぁ……後処理を怠ったの、きみ、わざとでしょう」
明野は冨岡の反応を見逃さなかった。
身籠ったと伝えた瞬間、ほんの僅かだが、口角が上がっていた。彼自身、その自覚もないだろう。
「なぜ、そう思う」
冨岡は明野の言葉を聞き、動揺した。
「冨岡くんは、私を前線から下がらせたがっていたよね。孕ませてしまえば話が早い。責任を取る、なんていう無責任なことをよく言っていたし」
「無責任だと? 俺がどれだけ、お前を――」
お前を大事にしていたか、と、冨岡は内心で主張した。
しかし声に出すことができなかったのは、やはり彼自身そう言われるだけの自覚があったからだった。
「……ふっ、ふふっ、はははっ! やっぱり、からかいがいがあるね、冨岡くんは。ごめんごめん、今のはわざと意地悪を言ったよ」
冨岡はついむっとしたが、明野の元気な様子を見られた安堵の方が
「私はね、お互いいつ死ぬともわからない仕事をしているんだから、やれることはやれるうちにやったほうがいいと思ってる」
「なんだ、その、曖昧な言い方は」
「男ならはっきりしろという意味だよ」
明野がゆっくりと身を起こすと、冨岡はそれを支えた。
「ありがとう」
「……礼を言うべきは俺の方だ」
それから冨岡は何か言いかけて、一度口を閉ざす。
明野もこのときばかりは何も言わず、冨岡の言葉を待った。
「お前が身籠ったことは……とても、嬉しく思う」
「……よかった」
「順序は逆になってしまったが、俺は、お前と添い遂げたい。俺の妻になってくれ」
「うん。よろしくね、義勇くん」
「ああ。……ありがとう、明野」
2人は、抱き合うでもなく、接吻をするでもなく。
ただその手を握り合っていた。