歯車
「すごい寒いね……復帰の時期を間違えたかな、これは」
「俺の後ろにいろ。少しは風を避けられるだろう」
明野と冨岡は、珍しく同じ任務に就いていた。
というのも、長らく休養していた明野の復帰戦が今回だったので、安全を期して冨岡の任務に同行する形となったのだ。
任務自体はそれほど難易度の高いものではなく――それでも柱に与えられたものであるため、一般隊士に課せられるものとは一味違ったが――、2人いればすぐに終わった。
しかし、どうやら任務地近くの山に鬼が出るとの噂があるらしいと道中で知り、その真偽を確かめるべく2人は人気のない雪山を上っていた。
そして、そこで出会ってしまったのだ。
兄妹――鬼となってもなお兄を守ろうとする妹と、その妹を人間に戻そうとする兄に。
*****
鬼となった少女を庇う少年に、強い言葉を投げ続ける義勇。
明野はそれを見て、"この人こういうとこあるよなあ"などと思っていた。
とはいえ義勇が鬼、もとい妹をすぐに殺さなかったのは意外だった。
だが明野も人間を庇う鬼など見たことがなかった。鬼に対して特段の恨みを持たない彼女は、口には出さずとも興味が湧いていた。
無謀にも義勇に戦いを挑み、気絶させられたその兄妹は、義勇の手により雪の上に寝かせられている。
「義勇くん、それどうするつもり?」
「……違う」
「またそう、端折るんだから」
義勇にも何か考えがあるのだろうと思ってはいたが、折った竹で轡を作り始めたときはさすがに驚いた。
「まあ確かに、この妹の鬼は少し他とは違いそうだね」
「……」
「私を巻き込むまいと考えてるなら、無駄ってものだよ」
「まだ何も言っていない」
図星を指された義勇は少し拗ねたように答える。
「とんだ復帰戦になってしまったけど、これは逆に、私と一緒でよかったのかもしれないね」
「……ああ」
これがもし不死川や悲鳴嶼であったなら、この妹の鬼は会話の余地もなく頸を落とされていただろう。いや、他の柱であってもそれは変わらないかと義勇は考えた。
ともあれ少し時間が経てば、兄妹の兄のほう――竈門炭治郎が目を覚ました。
そして義勇は彼に、
だがあまりにも情報不足だったので、明野はここからの道程を教えてやった。
「戻るぞ、明野」
「うん」
兄妹たちの返事を待たず、2人は下山した。
*****
道中、義勇は複雑な心境だった。
「お前にも、迷惑をかけるかもしれない」
「いいよ。同じくらい、労りの言葉をかけてくれればね」
それくらい、いくらでもかけよう……と、義勇が返す暇もなく。明野は言葉を続けた。
「あと家事も手伝って、子供の話し相手、ああ、遊び相手もしてほしいね」
「それは……任務よりも、難しい仕事だな」
「大丈夫だって。期待してるよ、お父様」
「俺は父親じゃない。お前の夫だ」
「引っかかるとこ、そこじゃないから」
明野は手の甲で義勇の肩を軽く
「まあ、なんとかなるよ、何事もね」
「……お前が言うと、妙に説得力がある」
「そりゃあ、なんとかしてきたからだよ」
これが"母は強し"というやつか、と義勇は頷いた。