幕間

明野は1人、湯浴みを満喫していた。

つい先日柱に就任してからというもの、一般隊士であった頃とは忙しさが格段に異なっていた。

同じく柱であり友人の胡蝶は、屋敷での仕事もあるからと遠方での任務に赴くことは多くなかったようだが、明野はそうもいかない。

任務を終えたかと思えばすぐに次の任務を言い渡される。その繰り返しだった。

ちなみに、久々の非番が冨岡と被らなかったことは密かに残念に思っていたがわざわざ言ってはやらない。

ともあれ貴重な休暇を謳歌するため明野はゆっくり湯に浸かることにした。

明野は風呂好きだった。

最近は、しのぶが創薬の際に余らせた生薬で作ってくれた入浴剤に凝っている。

木製の縁に頭と両腕を預け、目を閉じて、完全に気を抜いていた。

「あー…………これいいにおいだぁ……」

「そうだな」

「だよねぇ……さすがしの――ぶっ!?」

突然背後から聞こえてきた声につい返事をした明野は、我に返った。

そして目を開けると、

*****

「……痛い」

「どう考えてもきみが悪いでしょ! いきなりあんなっ、その、あんなの見せつけてきてさあ!」

「あんなのとは心外だ」

明野の入浴中に勝手に風呂場に入ってきた冨岡は、わざとではなかったものの彼女の眼前に局部を見せつけた。そして殴られた。

しかしすぐに立ち直ると、さも当然といった顔で風呂釜に入ってくる。

そしてそのまま明野の体を後ろから抱きしめた。

「なに、ちょっと、離してっ、狭い!」

「いやだ。……久々の清藤だ」

離れようともがいたが、冨岡の両腕を腹に回されてより体が密着する。

首元に顔を埋められて、吐息が首筋をくすぐる。

そして腰あたりに感じる硬い何かには、明野はあえて触れなかった。

「今さら何を恥じる。俺たちはすでに、もっと深い仲のはずだが」

「ふか、ぁ……っ」

胸にまで手を回されたことでつい甘い声が漏れてしまい、明野は慌てて口を押さえる。

それに気を良くした冨岡は調子に乗った。

「そうだな……このあたりだろうか」

明野の下腹を撫でる指先が、とんとんとつつく動きに変わる。

「なにが……っ」

「とぼけるな。……いや、照れているのか。このあたりまで、俺を受け入れた・・・・・だろう」

冨岡は、明野はすぐ怒るがいつもなんだかんだで許してくれると思っていた。

加えて、直球の口説き文句にはめっぽう弱いことも理解している。

だからこうして、口下手ながらに頑張って恥ずかしがらせようと奮闘しているのだが、

「っ、清藤、何を……っ」

「あぁ……はは、確かにこのあたりかもね」

明野もやられっぱなしで黙っていられる性分ではなかった。

明野は浮力を利用して素早く体を反転させ、冨岡と向かい合う体勢になる。

豊かな双丘は冨岡の鍛え上げられた胸板に吸いつくように重なり、膝を立てて座る冨岡の上に乗り直すと、互いの腹で彼の昂りを挟む形になった。

それがちょうど、冨岡につつかれた辺りに感じられたため、明野は確かめるように腹でそれを撫でる。

「っふ、ん"……っ」

冨岡は耐えるような吐息を漏らしたかと思えば、明野の顔を両手で掴んで口付けた。

そしていきなり舌を絡め取られ、明野も思わず腰を動かしてしまう。

「んぅ、っん、あはぁ……」

こういう場面では普段の明野からは想像もつかないような甘い声を漏らすことを知った日から、冨岡はもう鳴かせたくて仕方がなかった。

そして、我慢弱い明野はたいがい声を抑えきれない。

「とみおかくん、きもちい……」

――心配になるくらいちょろいな。

と冨岡は思ったが、ここまできて機嫌を損ねたくはないので黙っておく。

黙るのは得意だった。

*****

冨岡と明野は2人してのぼせた。

久々だったこともあり、かなり盛り上がったからだ。

もう無理だと言っても止まらない冨岡に、明野はされるがままだった。満更でもなかったのだ。

「いい湯だった」

「……ばかぁ」

浴衣を適当に羽織っただけの明野は布団にうつ伏せに倒れ込む。

「腹が減ったな」

「ん……」

明野は寝そべったまま、台所の方を指さした。

冨岡は、何かあるのだろうかと思い見に行くと、串に刺さった団子が4つほど皿に盛られているのを見つけた。

明野が朝のうちに作っておいた、風呂でさっぱりしてから手をつけようと置いておいたものだ。

「お前が作ったのか」

「うん」

「……すごいな。売り物みたいだ」

「別に、これくらい普通……」

「お前は料理人でも目指しているのか」

「何言ってんの?」

明野はその性格に反して――という表現が適当かどうかはさておき――料理上手である。

店で出てきてもおかしくない出来栄えのものを作っておいてなおの照れと謙遜に、一体どこを目指しているのかと冨岡は素直に疑問に思った。

そんなわけないだろとこれまた素直に答えた明野も、ともあれ冨岡により運ばれてきた団子に手をつけ始める。

「そういえば冨岡くん、何でいんの?」

「任務が予定より早く終わった」

「ふーん。よかったね」

「ああ」

実は冨岡は明野の非番を把握していた。だから、この日はなんとかして2人の時間を作ろうと必死に手早く任務を終わらせてきたのだ。

完全に1人で過ごすつもりでいた明野は調子を狂わされてしまったものの、まあ一緒に過ごせるならそのほうが良いと思い、この後のことを考え始める。

「この後どうすんの? 任務明けだし寝る?」

「そんな勿体ないことはしない。お前に合わせる。何か予定はあるのか」

「いや、これといってないけど。まあ、散歩くらい」

明野は当初、夕餉の買い物ついでに散歩でもしようかと思っていたが、

「動けるのか?」

「動けないよ。誰のせいだと思ってんの」

先ほどの冨岡の所業により、足腰が弱っていた。

*****

結局、今日はよく晴れているからと縁側で日向ぼっこをすることになった。

しかし、2人ともわざわざ日向ぼっこなどしたことがなく、とりあえず茶を淹れて並んで座るのみである。

「日向ぼっこって、何すればいいんだろう」

「……」

「きみがしようって言ったんだよね?」

「……」

「はぁ……まあ、たまにはいいか」

まだ疲労の抜けきらない明野はなんだか途中でどうでもよくなり、おとなしく日光を浴びて休むことにした。

青い空にわずかに浮かぶ雲。時々飛んでいく鳥は、幸いにも鎹鴉ではない。

「……平和だね」

「……本当にそう思うか」

「うん」

冨岡はその答えに満足した。

幼い頃から鬼狩りばかりしており、平和とは無縁の生活を送ってきた明野。

そんな彼女が一緒にいる時間を平和だと感じているならば、彼女の世界に初めて安らぎを与えたのは自分だと思えたからだ。

しかしそんな安堵も束の間、冨岡は明野の姿を見て眉を顰めた。

「服を着ろ。外だぞ」

「着てるじゃん。中だし」

雑に羽織った浴衣の帯は締めているものの、それもまた雑だった。緩く締められた帯では浴衣の衿も開いており、片足の太ももが露出している。

冨岡は縁側をほぼ屋外だと認識していたが、裸足で歩ける場所は屋内だと明野は思っていた。

先ほどはのぼせてしまったので一旦治まったが、冨岡の熱は冷めたわけではない。

そんな彼の内心など知らない明野は、今日も今日とて無防備な姿を晒している。

冨岡はいつも我慢していた。

だが辛抱堪らず手を出すと、明野には"いきなり襲ってくるな"と怒られるので理不尽を感じていた。冨岡からすればどう見ても誘っているのは明野の方であったが、無自覚なので手が付けられない。

ちなみに胡蝶姉妹の前でも以前は気にせずだらしない格好をしていたが、見つかる度に怒られたので気を付けていた。この屋敷に来てからはそんな注意もなくなり、だからこそ余計にだらしなくなってしまうのだが。

隠すべき部位が見えそうで見えない。冨岡の視線はもはや澄んだ綺麗な青空よりも目の前の艶めかしい女に釘付けだった。

そして、今日も冨岡は明野をいきなり襲った。

「ちょっと、ここでする気? 外なんでしょ?」

「中だと言ったのはお前だ」

床に明野を押し倒した冨岡は、脱げかけの浴衣を無遠慮に暴く。

「……濡れている」

「言うな!」

「叩くな」

冨岡は自身の浴衣もさっさと脱ぎ捨て、存分に明野を味わった。

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