青いままでいい
【甘露寺視点】
明野さんはいつも、簪を挿している。
とっても綺麗な青色のとんぼ玉。一目ですごく上等なものだとわかった。
明野さんはあまりお着物や髪飾りには興味がないみたい。私はずっとそう思っていたし、多分それは事実だと思う。
でも、あの簪だけは常に身に着けていた。
*****
今日はたまたま時間が空いたから、明野さんを私のお屋敷に招いてパンケーキを振る舞うことになった。
本当はしのぶちゃんも誘ったのだけれど、任務の都合で難しいみたい。また今度、と約束をした。
明野さんはあまり西洋の食事に馴染みがないと言っていたから、これを機に気に入ってもらえたら嬉しいわ!
――という目論見通り、明野さんは目を輝かせてパンケーキを観察していた。
せっかくだからとオムライスの作り方も一緒に教えると、今度作ってみると言ってくれた。
あんなにたくさん焼いたパンケーキも、2人がかりなら一瞬で食べきってしまい、今は食後のお紅茶を頂いているところ。
紅茶も初めてだという明野さんは、またしても感動したように茶葉を観察していた。
「明野さん、今日はありがとう! 楽しんでもらえたかしら?」
「うん。あとで早速おむらいすとやらを作ってみるよ」
私よりも明野さんの方がお姉さんだけれど、敬語はいらないと強めに言われてからはお友達だと思って話している。
「冨岡さんと悠義くん、喜んでくれると良いわね!」
「……ま、まあね」
明野さんは頬を赤くして、指先でその頬をかいた。照れているのかしら、とってもかわいいわ!
少しそっぽを向いた明野さん。ふと、その後ろ髪に挿された簪が目に入った。
「ねえ明野さん。そういえば、いつもその簪を挿しているけれど、お気に入りなの?」
「え? ああ、これ? ――うん、お気に入り」
急に簪の話を振られたからか、明野さんはきょとんとした表情を見せる。
でも、その後ですぐに――、
「キャー!! 冨岡さんに貰ったのねー!?」
「なんでわかるんだよ!?」
だって、すっごく素敵な表情を見せてくれたんだもの! 冨岡さんにも見せてあげたかったわ!
簪はやっぱり冨岡さんからの贈り物だったみたいね。
明野さんは赤くなった顔を隠すように片手で覆った。
「素敵だわ、憧れちゃうわ……! 私もいつかそんな方と出会ってみたいわ!」
「え、伊黒は?」
「へっ!? いいいい伊黒さん!?」
「はっ、あいつのどこがいいんだか」
「そんな! 伊黒さんだって優しいところがあるのよっ!」
「いや蜜璃にだけでしょ」
「えぇっ!? そ、そうなの!?」
「気づいてないのかよ……」
熱くなった頬を押さえていると、小さく笑う声が聞こえた。
明野さんを見ると、いつの間にかはずした簪を手に持って眺めている。
簪を撫でる優しい指先も、愛おしそうな視線も……無自覚でやっているなんて。
青いとんぼ玉。どことなく冨岡さんを思わせる色合いで、明野さんにとっても似合っていた。
――もしかして、冨岡さんがお店で頑張って選んだのかしら!? 健気でかわいい……!
いつもツンツンして冨岡さんを嗜めているの、あれは照れ隠しだって私は知っている。いつだって明野さんは、彼の見ていないところで彼を甘やかすの。
だからきっと冨岡さんは知らないんだわ。明野さんは、こんなに綺麗な表情で貴方のことを思い出すんだって。
「ふふっ……ねえ、明野さん。オムライス、うまく作れるといいわね! 応援しているわ!」
「何急に。まあ、でも、うん……ありがとう。――ったくもう、調子狂うな……」
「?」
「何でもねえ。そろそろ帰るよ、今日はありがとう」
明野さんは簪を挿し直して、席を立った。
私も屋敷の外まで見送りに一緒に行くと、
「……またか」
冨岡さんがいた。
「明野、偶然だな」
「待ち伏せは偶然とは言わないよ」
「たまたま近くを通っただけだ」
「嘘つけ! はぁ、さっさと帰るよ」
「ああ」
あっ、冨岡さんが笑った! ……気がする。貴重なものを見てしまったわ……!
「蜜璃、ありがとう。じゃあ、また」
「ええ、こちらこそ! 今度はしのぶちゃんも一緒に!」
明野さんは呆れたように溜息を吐きながらも、冨岡さんの横に並んで歩いていく。
2人の背中を見送りながら、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
「やっぱり、素敵だわ」
日の光に照らされて、青いとんぼ玉がきらりと光った。
その輝きに、ふと目を奪われて。
いつか、私も――。