任務
【義勇視点】
俺は"清藤"という女性の隊士にもう一度会いたい。
彼女と最後に会ったのは、彼女と最初に会った最終選別後だった。
彼女は俺に怒りをぶつけ、顔面に拳もぶつけた。
俺は目が覚めた。
そして強くなろうと鍛錬を積み、先日、柱に任命された。
これまで、彼女と顔を合わせることはなかった。
男でも生き残るのが厳しい仕事だから、彼女がすでに命を落としていてもおかしくはない。だが、俺は生きていると信じていた。根拠はない。
清藤……これは名字だろう。名前は知らない。
誰かと任務で会う度に、ああ、今日も彼女に会えなかったと肩を落とす日々だった。
今日は甲隊士との任務だ。
宇髄曰く、今回同行する隊士は次の柱候補だという。宇髄は会ったことがあるらしい。妙に機嫌が良かったから、相当腕の良い隊士なのだろう。
ともあれ合流地点に向かうと、そこにはすでに1人の隊士が待っていた。
「あ、水柱様。今日はよろしくお願いします」
意外にも、女性の隊士だった。
穏やかな笑みを見せた彼女は、俺の記憶の中の"清藤"とは違う。なのに。
「お前は、清藤か……?」
俺はついそう聞いてしまっていた。
「あれ、ご存知でしたか? はい。清藤明野と申します」
「…………」
全身から汗が吹き出したように、体が熱い。
――"この未熟者!"
ずっと昔に聞いたはずのその声が、鮮明に蘇る。
俺は、俺は――
「えっ!? あの、水柱様……っ!?」
「お前に会いたかった」
俺は思わず清藤を抱きしめてしまった。
「は!? なんで!?」
「お前のおかげで、俺は生きてこられた」
「はぁ!? 意味がわかりません! ちょっ、離してください!」
ぐいぐいと胸を押されるが、俺の方が力が強い。だが彼女がこの世に存在している喜びを、今はただ噛み締めさせてほし――
「ぐぅっ……!?」
俺は思わず、その場に蹲った。何故なら、
「柱なら何をしても良いとお思いですか。恥を知れ!」
……金的に、容赦のない膝蹴りをくらったからだ。
*****
「あの……すみません、やりすぎました」
「いや……俺が悪かった」
「はい。私もそう思います。私、正直やりすぎてはいないと思ってます」
「ああ、それでいい」
不機嫌そうに俺を見上げた清藤は、目線を外すと溜息を吐いて歩き出す。俺もそれに続いた。
「清藤、お前は最終選別のことを覚えているか」
「え? すみません、あんまり覚えてないです。隊士になってからの方が大変だったので」
「えっ」
「えっ?」
覚えていない……だと……?
俺にあれだけのことをしておいてか。
「水柱様は覚えているのですか?」
「……俺は水柱じゃない」
「は? ……あー、えっと、冨岡さん?」
「……ああ」
「冨岡さんは覚えてるんですね。すごいです。さすが柱」
すごく平坦な声音だ。思ってもいなさそうだった。別に構わないが……。
しかし、そうか。覚えて、いないのか……。
「冨岡さん? どうかしました?」
「何がだ」
「そんなあからさまにしょんぼりされたら気になりますよ。理由を聞いてほしそうにさえ見えます」
そんなつもりはなかったが。落ち込んだのは事実だ。
「言いたくなければ聞きません、聞いてほしければ聞きますが。――それより、私、今日鬼を倒せば柱に昇格する条件を満たせるんです。早く行きましょう」
「わかった。だが、任務が終わったら聞いてほしいことがある」
「? わかりました」
*****
任務は難なくこなし、2人で帰路についていた。
「冨岡さん、任務終わりましたけど……聞いてほしいことって何ですか?」
「……3年ほど前のことだ」
「はあ」
「俺を殴った女性がいた」
「へえ……すごい人ですね」
「お前だ」
「は?」
「俺は、初めて女性に殴られた。忘れられなかった。責任を取りたい」
清藤が突然走り出した。俺は慌てて追いかける。
「何故走る」
「すみません、逃げなきゃいけないと思って」
「待ってくれ」
清藤の肩を掴むと、彼女は足を止めた。
「はぁ……何ですか? もう逃げませんから、わかるように話してください」
「まず、その敬語をやめろ」
「えぇ……それは重要なことですか」
「ああ。距離を感じる。年も同じくらいのはずだ」
「いや、同い年でも初対面ですし、柱は上司なんで。ありますよ、距離」
「違う。俺はずっと、お前にもう一度会いたくて仕方がなかった」
「……はあ、それで、私たちが知り合いだったとして。こうして会えたわけだけど、冨岡くんは一体どうしたいの?」
「…………」
考えていなかった。