絢爛なるパレス
忍田先輩と別れた後、俺たちは下津名のパレスを探るべくメメントスを訪れていた。
「……見つけた。確かにこのエリアに下津名のパレスがあるようだ」
「やったっ! 今回はすんなり見つかったね!」
「それだけあいつに欲望を奪われる人が多いってことだ。池波先輩みたいにな」
「改心させよう」
「そうね、池波くんが全てを奪われない内に……そして忍田さんのためにも、下津名を改心させましょう」
*****
下津名のパレスは、森の中にそびえ立つ塔のような形をしていた。
全体的にピンク色のド派手な装飾にまみれた、なんだか目がチカチカする光景だ。
出版社という感じでもなく……はっきり言って本人の外見のイメージに似ている。
入口近くまで来ると、下津名に会わせてくれと懇願する働き蟻と、それを突っぱねる門番蟻を見つけた。
「下津名様にお会いしたくば、イケメンになって出直すがいい!」
……なんだそりゃ。
イケメン……というのはよくわからないが、とりあえず入口はああやって塞がれているらしい。正面突破は難しそうだ。
それから一度、潜入のような形で目立たないルートから内部に入り込んでみたものの、すぐに行き止まりに当たってしまった。これまでの経験から察するに、パレスの構造を探るにはまだ情報不足ということだろう。
ちなみに、派手な外見に比べて内部は薄暗い洞窟のような構造だった。そして内部にも働き蟻が無数に存在しているようだ。
現実でも秘書を犬呼ばわりしていたくらいだし、秀聞社の他の社員のことも蟻に見えているのだろう。
ともあれ探索は手詰まりになってしまった。塔の上階に進むためには、やはり最初に見た門番のいる入口から入る必要がありそうだ。
「ここはいったん現実に戻りましょう。私たちはまだ下津名のことを知らなすぎるわ。このまま進んでも、攻略は難しい気がするの」
「……確かにな。倫理観のない記者だという以外は何も知らん」
「それすらもネット記事からの憶測だしね」
とりあえず、今日はパレスの存在がわかったことを収穫として、一度引き上げることにした。
*****
翌日。
シゴトにばかり集中していたら、『仕掛け人』に気付かれる可能性がある……ということで、舞台の稽古や普通の学生生活と並行して、パレス探索を行うことになった。
下津名の調査に関しては、直接接点のある池波先輩にさりげなく聞いてみる予定だ。先輩にとっては嫌な話だろうから、聞き方は気を付けないといけないが……。
パレスの方はともかく、演劇はかなり順調に進んでいた。
セリフを間違えたり飛ばしたりすることも少なくなり、池波先輩の指導もあって演技もみんな上達してきている。
駿は相変わらずセリフを噛むが。
「あ、そうだ……。明日、急遽で申し訳ないのですが、私はお休みをさせていただきます」
和気あいあいとした雰囲気で練習が進む中、亜蘭が思い出したようにそう言ってきた。
なんでも、雑誌の取材の仕事が入ってしまったらしい。さすが売れっ子漫画家だ。
『コミックノート』という雑誌にインタビューが載るらしいが、理子はそれが秀聞社から出ているものだと言う。下津名の所属する会社だ。
「あ、秀聞社って下津名がいるとこか!」
ちょうど調べていた情報を耳にしたせいか、駿が素直に反応してしまった。
亜蘭と池波先輩も、突然出された下津名の名前に怪訝な表情を見せている。
「っと! あー、えーと……ツナ……ツナサンドが食べてぇな〜……って……」
「俺は卵サンドがいい」
……。
「いや、誤魔化せてないですけど……」
亜蘭に呆れたような目線を向けられてしまった。さすがに無理だったか。
「お前ら、もしかして……下津名さんのことを調べているのか?」
「あ、ううん。調べたってほどじゃないのよ。あの人、ネットでも有名人なのよね。どこかで見たことがある人だねってちょっと検索しただけなの」
「まぁ、確かによく騒がれる人だからな……」
「そ、そーっす! 前に先輩がウザそうにしてたし、どんなヤローなんだろう、って……」
「……あのさ、もし俺を心配して、あの人のことを調べようとしたんだったらやめてくれ。あの人には関わらないほうがいい」
駿の言葉に、池波先輩は表情を曇らせてしまった。先輩は、どうやら俺たちのことを気遣ってくれているようだが……。
「クセの強い人だからな、下手に関わると嫌な気分になると思うぞ」
「でも、心配なんです」
「……大丈夫、俺のことは心配いらないよ」
"大丈夫"……またその言葉だ。どうしてみんな、そう言ってしまうんだろう。
片山先生は覚悟ができているから。忍田先輩は我慢をしているから。じゃあ、池波先輩は?
先輩のその言葉には、俺たちの懸念を晴らすだけの強さはなかった。