仮面の下は
駿と共に池波先輩を助け出し、校門から少し離れた中庭に連れてきた。
「えっと、それで呼んでる先生ってのは?」
「え? ああ〜、それ嘘だって。なんか先輩、困ってるっぽかったからさ」
「えっ?」
「駿が機転をきかせたんです。先輩も騙された?」
早々にネタばらしをすれば、池波先輩は意外にも――、
「あっはっはっは! Bravo!! なんだ演技の才能あるじゃないか、加納!」
清々しく笑い、駿の肩を叩いて演技を褒め始めた。
「あいてっ!」
「池波先輩、なんか雰囲気が……」
「あ、すまない……。ははっ、いや安心してつい、な」
「ということは、あの場から連れ出して正解だったのね。お仕事関係の方みたいんだったし、声をかけるかちょっと迷っていたのよ」
「ああ、逃がしてくれて本当に助かったよ」
それから先輩は、先ほどの下津名という人物について教えてくれた。
雑誌の編集長をしている人で、池波先輩を応援して記事を書いてくれているらしい。
しかし個人的に食事に誘ったりもしてくるようで、先輩は直接言葉にはしなかったが、嫌がっているみたいだ。
「ああ〜、そういう……」
「かぁ〜、芸能人ってのぁ、やっぱ付き合いとか大変なんだな……」
「ああ、しかも結構影響力のある雑誌だから、無下にするのも怖くてよ」
どうやら、先輩がバズるきっかけとなった動画を投稿したのがあの下津名さんらしい。その後も雑誌で取り上げるなど、なかなかに応援しているようだ。
先輩本人からすれば不本意な人気の出方だったが、そのおかげで、舞台以外にもテレビ出演のオファーも増えているらしい。
「わ、すごいじゃないですか!」
「そうなんだけど……本当のところ俺は、今年は役者の仕事をセーブするつもりだったんだ。高校最後の年だからな……今年は、演劇部の全演に集中したかった」
だが、下津名さんの持ってくる仕事を断れず、結果的に演劇部に迷惑をかけてしまっていたらしい。それで部長とギクシャクしていたのか。
「あいつらは本気で頑張ってるからな。俺は浮ついて見えるんだろう。まあ……迷惑かけるくらいなら、諦めて仕事に集中するべきなんだろうけど……」
でも、それじゃあ池波先輩がかわいそうだ。
……なんてことは、事情を聴いたばかりの俺たちには軽々しく言えることじゃないし、解決策もすぐには思いつかないけれど。
「おっと、なんだか話し過ぎたな。すまない、暗い話にしちまって。とにかくさっきは助かったよ。ありがとうな、みんな」
「おう! またなんかあったらさ、遠慮なく頼ってくれよな、先輩。……つか、さっきから何描いてんだ、亜蘭?」
とりあえず一件落着、みたいな雰囲気の中、1人黙々とペンを走らせる亜蘭。駿の一言で皆の視線が向けられた。
「スケッチをしていました。先ほどの騒ぎも興味深かったので……」
亜蘭は手元のスケッチブックを俺達に見せてくれた。あの短時間で、よくこんなに精巧に描けるものだ……。
「うわ、うまっ……! ……って、そうだ! 亜蘭の絵で思い出したけど、さっきのやっぱり『しののん』だったよね!?」
「ええ、確かに忍田さんだったわ。というか、名前も呼ばれていたし」
「そういや校舎の方に戻ってったよな? あのまま帰んのかと思ったけど」
「池波さんは、忍田さんと親しそうに見えましたが……」
亜蘭の言葉で、今度は池波先輩に視線が集まった。
先輩はなんだか気まずそうにしながらも、後頭部をかくなどというイケメン仕草をしている。
「あー、まあ、そうだな」
「えっ、池波先輩、『しののん』と知り合いなんですか!?」
「つか素羽、なんでお前はファンのテンションなんだよ?」
「そりゃあ、さっきファンになったからね! かわいいんだもん、写真見てたら止まんなくなっちゃってさ〜……」
「というか、忍田さんはあの下津名さんに目を付けられてしまってるのかしら? さっきは、少しつらく当たられていたようだから」
理子はやや心配そうな表情だった。あまり接点はなかったとはいえ、クラスメイトなら思うところもあるだろう。
「目ぇつけられてんのは、そうかもな……」
「それは、どうして?」
「……さあな。俺にはわからない」
池波先輩は軽く息を吐くと、観念したように言葉を続けた。
「真理奈は……忍田真理奈は、俺の幼馴染なんだ」