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明さんから貰った媚薬は、メメントスのシャドウを状態異常にさせる効果があることがわかった。
混乱させたり洗脳したりなど、その効果はランダムのようだ。
有用とはいえ、せっかく貰った媚薬を異世界で消費してしまうのはなんだかもったいない気もしたが。
――まあそんなこんなで、今日はついに明さんと水族館デートの当日だ。
楽しみで昨晩はあまり眠れなかったが今朝は早く起きてしまい、今は朝5時。モルガナはまだ隣で寝ている。
スマホを確認するが、ドタキャンの連絡はない。
ちなみに、隣に住んでいるのだから一緒に行けばいいのだが、雰囲気作りのために現地集合にした。
約束の時間までまだ何時間もある。とりあえず、落ち着かないから足りなくなってきた潜入道具でも作りつつ時間を潰すとしよう。
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集合時間の10分前に品川駅に着くと、明さんはすでに到着していた。
「明さん! すみません、待ちました?」
「あ、暁くん、こんにちは。全然待ってませんから、気にしないでください。暁くんこそ、早いですね」
「楽しみで、つい。でも明さんの方が早かったな」
「僕も楽しみでしたよ。水族館って、初めてで」
そっちか。俺じゃなくて水族館の方か。くっ。
「水族館、行ったことないんですか?」
「ええ。実家もお店をやってますから、あまり遠出もできなくて。家に不満はなかったんですけどね、一度行ってみたいとは思ってました。1人じゃ来なかっただろうから、誘ってくれてありがとうございます」
「水族館以外にも行きたいところあれば教えてください。俺が一緒に行きます」
「……ありがとう。じゃあ、思いついたら言いますね」
「うん、俺からも誘うけど」
そう返すと明さんはちょっと困ったように微笑んだ。
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水族館の中に入ると、明さんのテンションが目に見えて上がっているのがわかった。
それを言葉には出さないが、興味深そうにきょきょろと色々な展示を見回しており、心なしかいつもより目が輝いて見える。
静かにはしゃぐ明さん、かわいいな……。
俺もそんな明さんを見て静かにはしゃいでいた。
ちなみに鞄の中のモルガナもモゾモゾ動いており、楽しんでいるようだ。刺身じゃないぞ。
「暁くん、タカアシガニ見に行きましょう。強そうです!」
意外と小学生男子みたいな感性だった。
しかし気持ちはわからないでもない。
いつの間にか無料配布されている三つ折りのパンフレットを持っていた明さんに連れられて、館内を回った。
最後にお土産コーナーに寄って、水族館を出る頃にはすっかり日も暮れていた。
「明さん、楽しかった?」
「はい、すごく楽しかったです。今日は色々と連れ回してしまってすみません……」
「気にしないでいい。俺も楽しかったし、連れ回されたなんて思ってないから」
「…………」
隣を歩く明さんの顔を見ると、いつもの困ったような表情じゃなく、嬉しそうに微笑んでいた。
「っ、明さん」
その顔は反則だ。
思わずその場で足を止めて、明さんの腕を掴む。つい抱きしめそうになったが、我慢した。まだそんな関係ではない。
「どうかしましたか?」
名前を呼んだまま動かない俺を不思議そうに見る明さん。
「明さん、今日、まだ時間ありますか?」
「はい、大丈夫ですよ。どこかでご飯でも食べていきますか?」
俺が提案しようと思ってたのに、とか小さなことを気にしている場合じゃない。
明さんが自分から長く一緒にいてくれようとしている。前より心を許してくれている証拠じゃないだろうか。
「行きます。明さんは何か食べたいものある?」
「暁くんさえよければ、おすすめのお店があるんですけど、どうですか? 知り合いに教えてもらったんですけど、良い肉のお店で、とてもおいしかったんですよ」
「明さんのおすすめなら、なんでも」
「じゃあ、行きましょうか」