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「わたし、昔は明ちゃんだけが友達だったんだ。……暁には、わたしが小さいとき、学校でうまくいかなかったって話はしたな」
「ああ……」
双葉の持って生まれた才能のために、周囲から浮いてしまっていた頃のことだろう。真も交えて秀尽を見て回っていた時に聞いた話だ。
「明ちゃんとは、お母さんと一緒にルブランに行ったとき、たまたま会ったんだ。――その日は平日で、わたしは学校が休みだったんだが、明ちゃんは制服着てて。親に心配かけたくないから毎日学校行くフリして、ずっとルブランで勉強してたらしい」
「それはつまり、不登校ってことか?」
双葉は頷いた。
「その時は理由まで聞けなかったけど、明ちゃんと話すようになってから色々知って、なんとなく想像ついた」
「……同性愛のことか」
「そうだ。……理由は違ったけど、学校に居場所がないのとか、わたしとおんなじだって思った。仲良くなるきっかけとしては、あんまり良くないかもしれないけどな」
双葉は少し自嘲するように笑った。
「まあとにかく、明ちゃんは何も悪い事してないのに、そういう理由でたくさん嫌な思いしてきてたんだと思う。一回グレたしな」
「えっ、グレたのか? 明さんが?」
全然想像つかない。
「わたしからすれば、今の敬語キャラの方が違和感すごいぞ?」
「詳しく知りたい……けど本人から聞きたい……!」
「その辺はがんばって本人から聞いてくれ。――で、わたしがお前を呼んだ理由なんだが」
そうだ、それを聞きに来たんだった。と、思考を引き戻す。
「明ちゃんを助けたい。今までのパターンからすると、明ちゃんの悩みは十中八九他人が原因だ」
「どういうこと?」
「例えば、嫌がらせされたり、しつこく迫られたり。人から何かされてる可能性が高い」
「改心してやる」
「気持ちはわかるが落ち着け。暁がルブラン出てからの音声は録音してある。多分そうじろうには明ちゃん相談してると思うから、原因はこれでわかるはずだ」
「よし、聞かせてくれ」
「圧が強すぎるんだが……。再生するぞ」
*****
双葉の録音した音声からわかったのは、明さんが何者かからストーカー被害を受けているということだった。許しがたい。
しかし、肝心の犯人については本人もわからないようで、手掛かりがない状態だ。これでは改心どころではない。
「ストーカーか……確か、前にもあったな」
「初めてじゃないのか?」
「ああ、その話はそうじろうがよく知ってるはずだが……わたしには詳しく教えてくれなかったんだ。その時のそうじろう、明らかに様子が変で、だから気になって調べた」
そう言った双葉はパソコンを操作し、画面に小さな新聞記事の画像を出した。
それほど大きな記事ではなかったが、要約すると"一方的な好意を寄せたストーカーの女が、迷惑行為の果てに被害者の男子学生を包丁で刺した"という内容だ。
被害者は幸い命に別状はなく、通行人に取り抑えられた犯人は逮捕されて実刑判決が出ている。すでに解決した事件の記事だった。