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「この被害者がおそらく明ちゃんだ。記事の日付でわかった、この頃から明ちゃんはしばらくルブランに来なかったし、後で聞いたら"ケガで入院してた"って言ってた」
「そんな……」
だとしたら、またストーカーされるなんていうのは、相当の恐怖なんじゃないのか。
「明ちゃんが苦労してた間、わたしは協力とか何も出来なかった。小さい子供だったし、お母さんのこともあったから当然といえば当然だが……でも今は違う。怪盗団として、改心させられる力もある。わたしは戦えないけど、そこは暁がいるしな!」
「ああ、そうだな。まずは犯人の情報を探ろう。……手掛かりないけど」
「そうなんだよなー……。とりあえず、暁は明ちゃんにできるだけくっついてろ」
「望むところだ」
「露骨に嬉しそうな顔したな」
まあいいけど、と言った双葉は椅子から下りて、ベッドに座る俺の正面に立った。
「双葉?」
「明ちゃんな、結構素直じゃないとこあるぞ」
「え?」
「でも暁に対する好感度と信頼度は高そうだ」
「急にどうした」
「応援だ。今回のことを暁に相談しなかったのは、知られたくないっていうより、心配かけたくなかったんじゃないか?」
お前が好き好きアピールしすぎるからだ、と双葉は言った。
「だって明さん、押しに弱いから。押してみようと思って」
「なら絶対引くなよ。引いたら100%離れてく」
「そうなのか?」
「……それで修羅場になってるとこを遠目に見たことがある。スゴかったぞ、男だらけの修羅場」
恋人からしばらく連絡が来なかった間に、フラれたんだと思い込んだ明さんが新しい恋人を作ったら、数週間の出張に行っていただけだった恋人が帰ってきて……という話らしい。
「まあ、ずいぶん前の話だけどな。興味ない素振りを見せたら"飽きたんだな"って思われるから、注意しろよ。明ちゃん妙に自己評価低いし」
「それはわかる」
双葉の言う通り、明さんはやたらと自己評価が低い気がしていた。
容姿にも恵まれてるし、あんな仕事に就いてるくらいだし学力はあるはず。性格だってちょっと卑屈だがまともな大人だ。媚薬の一件であれやそれやはあったが、あれは俺が頼んだんだし。
それにあんなにご立派な……いやこれは双葉には言えないか。
「とにかく、わたしは暁と明ちゃんがくっつくように協力するぞ」
「それはありがたいけど、いいのか? 男同士を応援なんかして」
「暁も明ちゃんも好きなら良いに決まってる。お前らどう見ても両想いだしな。それに少なくともわたしは、あとそうじろうも! 嫌がったりしない」
それを聞いて、俺はなんだか安心した。
明さんを好きな気持ちに嘘はないが、俺は元々ゲイではないし、男を好きになるなんて思ってもみなかった。
明さんだって俺の誘いを嫌がるそぶりは見せないけど、俺に告白しようとする気配はみじんもない。
そんな歯がゆい状態の自分の気持ちを初めて肯定されて、安心したんだろう。
「ありがとう、双葉」
「お、おおう……改めて言われると照れるな」
そう言って視線をさまよわせる双葉だったが、これからは明さん好きの仲間として頼らせてもらおう。