山崎退の監察日記

『○月×日、午後7時。新人隊士にして一番隊副隊長、そして真選組初の女性隊士という濃すぎる肩書きを持つ坂田梅の監視を始める。』

長々と書き始めてしまったが、つまりそういうことだ。

俺は今、屯所の屋根上から、自宅へ帰る途中の梅ちゃんを監視している。ちなみにストーカーではなく副長命令だ。いや副長がストーカーって意味じゃなくて!

ともあれ、今回梅ちゃんに監視がつけられたのには二つ理由があった。

一つは、局長と副長、それから沖田隊長と監察の俺にしかしらされていない情報だが、梅ちゃんはあの過激派攘夷浪士である高杉晋助の実の妹であるということである。そこ、であるであるうるせーよとか言わない。

そしてもう一つは、高杉の妹、そして元攘夷志士という立場を利用して、浪士たちの攘夷活動へ加担している可能性がゼロではないということだった。

まあ、二つ目の方は副長もあまり疑ってはいないみたいだけど。そのためか、この監視はたったの一日だけでいいと言われている。

『梅ちゃんは特に変わった様子もなく帰路に着いている。途中大江戸マートに寄り、夕飯の食材を購入したようだ。ちなみに内容は野菜と安い肉を数人分と、いちご牛乳一本。』

監視をするにあたって、梅ちゃんに関する情報は事前に手に入れていた。

梅ちゃんは既婚で、旦那とかぶき町に住んでいるらしい。旦那の名前までは聞いていないが、おそらく苗字は"坂田"だろう。ついでにその旦那の方も怪しいところがないか確かめなくてはならない。

『そんなこんなしているうちに、彼女の自宅に到着した。』

「って、アレ……万事屋?」

慣れたように万事屋の玄関を開けて中に入っていく梅ちゃん。

まさか、今から何か依頼でもするのか? でもそうだとしたら買い物なんてしないだろう。

『……何だろう……何かがおかしい……。』

そこで俺はある恐ろしい答えに辿り着いてしまった。

『俺は一つの仮説を立てようと思う。万事屋に入っていく梅ちゃん。万事屋の旦那の名前は坂田銀時。梅ちゃんのフルネームは坂田梅。つまり、梅ちゃんの旦那は万事屋の旦那だということになる。旦那は文字通り旦那だったのだ。』

確たる証拠がないから"仮説"とは言ったけど、俺はもはや確信していた。

『仮説はともかく、監視を続ける。』

梅ちゃんが万事屋に入ってから数時間が経ったが、人の出入りもなければ変わった様子もない。

『数時間後。深夜、万事屋から梅ちゃんと旦那が出てきた。どこかへ出かけるようだ。それとも、帰る梅ちゃんを旦那がただ送っているだけなのか……。』

俺は尾行を続けた。

旦那のスクーターに二人乗りをしてどこかへ向かう二人。

着いた先は……ホテル街だった。

『副長、奴らクロです。』

スクーターを停めた旦那は、梅ちゃんの腰に腕を回し、まるでカップルのような距離感のまま、ホテルへ入っていった。

『梅ちゃんと旦那はホテルで一夜を過ごし、翌日午前7時頃、万事屋へ帰った。』

……こんなことまで書かなくてもいいのかなと思いつつも、梅ちゃんの旦那をしりたがっていたっぽい副長のために、一応書いておいた。ストレートに"ラブホ"と書かなかったのだから許して欲しいところだ。

『帰宅後まもなく梅ちゃんは出勤。真選組の屯所へ直行した。』

あとはもう監視するまでもない。

『副長もわかっているかもしれませんが、結果から言うと梅ちゃんに疑わしいところはありませんでした。万事屋の旦那と結婚したことは疑うべきことかもしれないけど(正気を)、彼女は旦那の隣でとても幸せそうにしていたので、梅ちゃんの笑顔のために俺は応援しようと思いました。山崎退』

……よし。今回の任務も完璧だ。

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山崎からの報告書を読み終えた土方は一言。

「……作文!?」

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