思春期の恋バナ好きに性別は関係ない
【新八視点】
「梅は何で銀ちゃんと結婚したアルか?」
静かだった万事屋の居間に、神楽ちゃんのその一言が妙に響いた。
「どうしたんですか? いきなりそんなこと」
梅さんは僕と一緒に洗濯物をたたみつつ、首を傾げた。ちなみに銀さんはパチンコに行っていて不在だ。
「別に、ちょっと気になっただけネ」
少し照れた風な神楽ちゃん。やっぱり神楽ちゃんも女の子だ、そういう恋バナには興味があるのだろう。
「それに銀ちゃんは教えてくれなかったアル」
「ああ、それ、僕も気になります」
何で梅さんみたいなしっかりした人が――まぁ、少し抜けたトコはあるけど――銀さんみたいなちゃらんぽらんと、というのは以前から不思議に思っていた。
「確か、幼馴染だったんでしたっけ?」
「はい。初めて会ったのは私が7、8才くらいの時で……」
「小さいときの銀ちゃんってどんなだったアルか?」
「そうですね……基本、今と変わりませんね。寺子屋に通ってはいましたけど、講義中はずっと居眠りしてましたし。あ、でも剣術はすごく上手で、私の兄上も最初のうちは中々勝てなくて。それですぐ喧嘩したり、それを小太郎と諌めに入ったはいいけど逆に怒らせたりして……結構騒がしくしてましたね」
「桂さんも幼馴染なんでしたっけ」
「ええ、銀時より小太郎の方が付き合いは長いですね」
「えっ、そうだったんですか?」
もしかして、梅さんの天然は桂さんに影響を受けたものなのだろうか。
「それでそれで、銀ちゃんと付き合い始めたのは? いつアルか?」
神楽ちゃんは興味津々だ。
「付き合い始めたのは……」
梅さんは思い出すような素振りをみせ、それから腕を組んで黙ってしまった。
「梅さん?」
「……そういえば、付き合ってはいないですね」
「は?」
「いや、付き合おうとか、そんな感じのことは言っても言われてもいないです、確か」
「え、じゃあいきなり結婚したんですか!?」
「"結婚しねェ?"って言われたんで、"しましょうか"って返事したのは憶えてますけど……ていうか、それ言われたのも普通に天人と斬り合ってる最中だったので、もしかしたらハイになってたのかもしれませんね」
「銀ちゃんめちゃくちゃ勝手アルな」
「それじゃあ恋人らしいこともしないで結婚を?」
「いえ、恋人らしいことは割と――って、あ、なんでもないです、あの、私もハイになってた時期で、はは」
ああ、やっちゃったんだな、銀さん……。
と、僕はそんなことを思った。
「……なんで梅はOKしたアルか?」
神楽ちゃんがそうきくと、梅さんは少し恥ずかしそうにしながら、
「その、銀時と一緒にいられるなら、いいかなって思って。……私は好きだったから」
そう答えた。
この時の梅さんを銀さんにみせてあげたかった。
そんなことを思うくらい、梅さんから銀さんへの愛情が伝わってくるような感じがして、僕も神楽ちゃんもつい見惚れてしまった。
「あ、の……もう、いいですか?」
そう言う梅さんは恥ずかしそうに頬を染めていた。
「あ、は、はい! ありがとうございました!」
「梅の新しい一面がみれたようでみれなかったようで嬉しかったネ。また話きかせてヨ」
「いや、そこは"みれた"でいいでしょ」
「そ、そうですか? こんな話でよければいつでも」
神楽ちゃんが嬉しそうに頷き、恋バナは一段落着いた。
静かになったところで、突然居間の扉が開く音がきこえ、入ってきたのはいつものようにパチンコで負けて帰って来た銀さんだった。
「あ、おかえりなさい」
そう言って出迎える梅さんは怒ってはいないが呆れているみたいだ。
「お、おう。たでーま」
律儀に"ただいま"を返すあたり、銀さんは梅さんベタ惚れなんだなァと感じる。
僕や神楽ちゃんが言っても"おー"とかそんなんなのに。まぁ、銀さんに悪意があるわけでもないし、僕らも特に気にしていないから、それはいいんだけど。
「また負けたんですか?」
「うっせェ。俺だってなァ、たまにゃパチンコで大勝ちするっつー理想を抱くこともあンだよ」
「じゃあその理想抱いて溺死してください」
「俺の体は剣で出来てねーから無理だ」
「そうでした、銀時の体は糖で出来てるんでしたね」
そんな会話をお互いをみることもなくし続ける二人をみて、この人らホント仲良いな、と僕は思った。
……銀さんの耳がちょっと赤くなっているようにみえたのは、気のせいだと思っておこう。