2
*****
深夜。病院に運ばれた梅さんは治療を終えベッドに横たわっていた。
幸い急所は外れていたらしく、出血は多かったが見た目ほど重傷ではなかったようだ。それでもしばらくは安静にする必要があると医者は言っていたけど。
とりあえずのところは安心していいということで、病院に残るという銀さんを置いて、僕は神楽ちゃんと恒道館道場へ帰った。
*****
翌朝。珍しく早起きな神楽ちゃんは、朝一で梅さんのお見舞いに行くと言った。
それには僕も賛成で、姉上も一緒に来るみたいだ。
「あ、そういえば、真選組に連絡しておいた方がいいんじゃないかしら」
怪我したならしばらくは働けないでしょうし、という姉上に従って僕は真選組に電話をかけた。
『……真選組だ』
出たのは意外にも土方さんだった。てっきり山崎さんあたりが出るのかと思っていたから、少し緊張する。
「あっ、土方さんですか? 万事屋の志村新八です」
『ああ、お前か。珍しいな、どうした?』
反応を見る限り、まだ銀さんから連絡はいっていないようだ。
「あの、梅さんのことなんですけど」
『梅? 何かあったのか?』
「昨晩、その、何者かに斬られて怪我してて」
『斬られただと……!? それで梅は?』
土方さんもだいぶ驚いているみたいで、焦ったような声音に変わった。
「命に別状はないみたいです。でも傷が治るまでしばらく真選組では働けないと思うので、連絡を」
『……そうか。大江戸病院か?』
「え? はい、そうですけど……」
『わかった。連絡助かった。じゃあ、切るぞ』
そう言った土方さんは電話を切った。多分様子を見に行くんだろう。
「じゃあ、僕たちも――」
神楽ちゃんと姉上は、僕を待たず先に行ってしまっていた。
机に置かれたチラ裏には"おせーよメガネ。先に行ってます"とだけ書かれていた。
泣いていい?
*****
急いで病院に駆けつけると、受付の前で鉢合わせしたらしい姉上、神楽ちゃんと真選組のトップ3人を見つけた。ものすごく目立っている。
「もう新ちゃん、遅いじゃない」
「梅が心配じゃないアルか!」
「電話してた僕置いてったのそっちでしょ!」
そんな言い合いをしていると、病室の場所を聞いたらしい沖田さんが近藤さんを連れて歩き出して、いや、走り出していた。
慌てて僕たちもそれを追う。
途中で婦長さんっぽいおばちゃんに"なに廊下走っとんじゃコラァ!"と怒鳴られてしまったが、無視して走った。
着いた病室は大部屋で、何人かの名前の入ったプレートの中から梅さんのものを見つけると、扉を蹴破る勢いで中に入った神楽ちゃん。
驚く患者さんたちや怒るナースをこれまた無視して、一つだけカーテンで仕切られたベッドを見つけた。
「梅! 大丈夫アルか!?」
遠慮なくカーテンを開け放った神楽ちゃんと、僕たちの目に映ったのは、
「はい、あーんしてください」
「あーーーーーーん」
イチャつくカップルの姿だった。
だらしなく口を開けて待っている銀さんと、フォークに刺したりんごをその口元に持っていく梅さん。
2人は僕たちを見て動きを止めた。
「いや逆だろォォォォ!!」
僕がツッコみ、神楽ちゃんと姉上が蹴り、銀さんは病室の壁にめり込んだ。
「オイ……何やってんだテメーら……」
土方さんの瞳孔がいつも以上に開いていた。
「ま、まぁまぁトシ! 大丈夫そうで良かったじゃないか! ね!? ね!?」
土方さんを宥める近藤さん。
「止めないでくれ近藤さん。俺ァ今すぐコイツを始末しなきゃならねェ」
銀さんに刀を向ける土方さん。
「止めないでくだせェ土方さん。俺も今すぐアンタを始末しなきゃならねェ」
土方さんにバズーカを向ける沖田さん。
「テメーらァァ! 静かにしないとぶっ殺すぞゴラァ!!」
突然の婦長さん。
「坂田さんアンタ寝てなさいって言ったでしょうが!」
婦長さんの登場で静かになった病室。
「す、すみません。ずっと寝てるのもなんだか落ち着かなくて」
「それはわかるけどねェ。明日には退院できるから、旦那を見習って寝ときな」
婦長さんの視線の先には、壁にめり込んだまま動かなくなった銀さんがいた。どうやらさっきの蹴りがかなり効いたらしい。
「まあまあ、梅ちゃんの無事も確認できたし、今日のところは戻るか! 婦長さんも怖いし……」
近藤さんが明るく言い、土方さんたちを出口へ促した。
「治るまで仕事は休んどけ」
「早く回復してくれねェと報告書が溜まっちまいまさァ」
「テメーは自分で書け自分で!」
「じゃあ梅ちゃん。真選組のことは気にせず養生してくれ。屯所で待ってるぞ!」
「ありがとうございます。すぐ治しますから」
そうして真選組の3人は帰っていった。