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「先ほどは本当にすみませんでした、ええと……マリーダさん?」
「いや、誰がマリーダ? わっちは吉原が自警団"百華"の頭、月詠でありんす」
こんな会話が交わされたのは、つい半刻ほど前の出来事が発端であった。
*****
巷で横行しているという麻薬の密売。以前は吉原に密売人が潜伏していたようだが、その一派が壊滅し犯行は落ち着いていた。
だが最近になって、地上でこのような密売が行われているという情報が真選組に入ってきた。
本来真選組の仕事は攘夷浪士の捕縛や要人警護が主なものであるが、調査を任されていた監察の山崎によれば、密売グループは攘夷活動の資金調達の手段として密売を行っているという。
しかもあまり大きな組織ではないものの、過激な活動が多い集団ということで、逮捕には一番隊が出向くことになったのだが……。
「そういえば、沖田隊長は?」
「ああ……サボりです。"お前らだけで十分だろィ"って」
「やっぱりね……」
山崎と梅は、今日の昼過ぎに吉原の路地裏で行われる予定の密売現場を押さえるため張り込んでいた。
「にしても、地上じゃ飽き足らず吉原にまで来るとはね」
そう言いながら、山崎は牛乳片手にあんぱんを頬張っている。
「そうですね」
梅はチョコレートパフェを食べていた。
「……梅ちゃん、何食べてんの?」
「パフェですが……」
「いやみればわかるから! そうじゃなくて――」
「最近のラブホはアメニティが充実してるんですね、これ、サービスだそうですよ」
アメニティってそういうヤツだっけ、と山崎は思ったが、あまりツッコむと天然が止まらなくなりそうだったのでやめた。それより、
――"最近のラブホは"ってことは、梅ちゃん、ラブホ来たことあるのか……。相手が羨ましい……って、あ、万事屋の旦那だった。いや、でも羨ましい……!
「そういえば梅ちゃん、今更だけど仕事とはいえこんなとこにいて大丈夫なの?」
「え?」
「ほらここ、一応ラブホだし……」
しかも厠だし、と山崎は続けた。
ラブホゆえ部屋には窓がなく、厠に設置された換気用と思われる小窓から外を見張っていた。
「ああ、銀時のことですか。大丈夫ですよ、仕事なんですから。……まあ、ここで"何か"あったらお互いただじゃ済まないかもしれませんけどね」
そう言っていたずらっぽく微笑む梅に、山崎の頬は少し赤くなる。
――耐えろ、耐えるんだ退……! 梅ちゃんは人妻、梅ちゃんは人妻……ってコレじゃ逆にいやらしい……!
そんな山崎の葛藤を知ってか知らずか平然と張り込みを続ける梅に、山崎は多少のSっ気を感じていた、というのは余談だが。
「――って、そんなこと言ってる間に、来たみたいだ」
双眼鏡から覗いた先には、路地裏に集まる3、4人の攘夷浪士と思わしき男たち。
「梅ちゃん、準備は?」
「出来てます」
「よし。じゃあ今から向かってもらうけど、着手は密売が始まってからね」
「了解しました」
梅は頷き、部屋を出て行った。
*****
梅がラブホから出ると、2人の男がさり気なく近寄ってくる。
片方は角刈りでガタイの良い平山、もう片方はやや細身で愛嬌のある相田。どちらも一番隊の隊員である。
周辺を歩きながら合流し、連絡をとった。
「副隊長!」
「とりあえず、一度私一人で向かいます。逮捕後の身柄の移送をお願いできますか?」
「車は用意してあります」
「じゃあそれでお願いします。あ、それともし厳しくなったら助けを呼んでもいいですか?」
「もちろんッス! 俺が行きますよ!」
「ありがとうございます」
周囲に怪しまれない程度の小声で段取りを決め、それからそれぞれの持ち場へ散っていく。
梅は路地裏へ向かい、
「すみません、お兄さん方。ちょっとお時間いいですか?」
密売の現場を押さえに入った。