2

*****

結局斬り合いになり、浪士たちの刀を受けては斬り、受けては斬りを繰り返した。

……と言っても、急所を避けたり、峰打ちで気絶させて倒すのが今回の目的である。

ここで数人を殺したところで組織を潰さねば意味はない。屯所に連行して組織の情報を吐かせるため、出来るだけ殺すなという指示も出ていた。

そうして浪士たちを倒していると、背後に別の気配を感じた。

梅は振り向き、同時に上から飛んでくるモノを刀で打ち払う。ぶつかった時の音から察するに金属のようだ。

そして飛び降りてくるそれを投げたであろう人物との距離を一気に詰め、首元に刀を突きつけた。もちろん峰をだが。

「ッ……!」

相手の息を呑む音を聞き、梅が顔を上げると、

――女?

そこにいたのは浪士ではなく、一人の女子だった。その表情に戦意や敵意はみられない。

「……すみません! お怪我ありませんか!?」

梅はすぐに刀を鞘に納め、頭を下げた。

「だ、大丈夫じゃ」

急な変わり身に、女子――月詠は驚く。

「本当にごめんなさい、お詫びを――」

「いや、わっちの方も苦無を投げた。お互い様でありんす。とにかく、頭を上げなんし!」

平身低頭を貫く梅に、月詠は若干慌てていた。

「……とりあえず場所を変えんす。ついて来なんし」

月詠は一旦落ち着くため、"ひのや"に梅を案内することにした。

路地を出たところで一人の男が近づいてくる。一番隊の者だ。

「副隊長! ご無事で?」

「あ、はい、私は大丈夫です。すみませんが、後をお任せしてもいいですか……?」

「ええ、そりゃ構いませんが――」

「私は後から戻ります。あ、山崎さんにも伝えておいてください」

「わかりました。それじゃ、後で」

頷いた梅と男はそれだけ話して別れた。

「すみません、お待たせしてしまって」

「ああ、いや……」

月詠には色々とききたいことがあったが、ひのやに着いてからきくことにした。

*****

"ひのや"はかつて花魁であった日輪が経営する茶屋であり、月詠にとっては住家でもある場所だ。

「あら月詠、お客さんを連れてくるなんて珍しいじゃないかい」

「もしかして月詠姉の友達!?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「いいよいいよ。せっかく来たんだ、茶くらい出すさ。月詠と座って待ってなよ。――晴太、ちょいと手伝いな」

梅は申し訳なさそうにしながらも、出迎えた日輪に促されるまま月詠と並んで椅子に腰を下ろした。

――そして、もう忘れられているであろう冒頭の会話に戻る。

「……先ほどは本当にすみませんでした、ええと……マリーダさん?」

「いや、誰がマリーダ? わっちは吉原が自警団"百華"の頭、月詠でありんす」

「月詠さん。私は真選組の……あれ、ええと……あ、あった。一番隊副隊長、坂田梅です」

月詠はやや戸惑いつつ、梅は警察手帳を探しつつ自己紹介を済ませた。

「単刀直入に聞くが、梅、ぬしはあそこで何をしていたんじゃ?」

「ああ、それは――」

梅は、月詠は一般市民ではあるが自警団、それもその頭なら話しても問題ないだろうと判断し、麻薬とその密売人を追っていたことを話した。

「……重ね重ねすみません。やっぱり、自警団の方にも先に話しておくべきでしたね」

「いや、元は地上で追っていたのなら仕方ありんせん」

「そう言ってもらえると助かります。でも今度もし何かあるようなら連絡しますね」

梅の言葉に月詠が頷き、この話題は収まった。

「月詠姉!」

話が一段落ついたところで、店の奥から晴太がお茶と団子を持って走ってきた。

「晴太、走るんじゃないよ!」

遅れて日輪もやってくる。

「お姉さんは月詠姉の友達なの?」

二人に盆に乗せたものを手渡すと、晴太は梅に向かってそうきいた。

「友達……に、なってもらえますか、月詠さん」

「え? あ、あぁ、構わんが……」

妙に真剣な眼差しで言梅に、月詠は咄嗟に頷いたが、その後の梅の嬉しそうな表情をみて悪くないとも思っていた。

「ええと、晴太くん、でしたっけ」

「うん。そんで、こっちはオイラの母ちゃん」

「私は日輪。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします。あ、坂田梅です」

梅は晴太と日輪に軽く頭を下げた。

「ねえねえ、梅姉のその服、もしかして警察の!?」

「え? ああ、はい。真選組で働いてます」

「すげー! じゃあ梅姉強いんだ! 月詠姉とどっちが強いかな」

「ふふ、月詠さんは敵じゃないですから戦いませんよー?」

梅は晴太の質問に慣れた様子で答えていた。

「なかなかいい子じゃないか。子供慣れしてるのかねえ?」

「そうじゃな」

その様子をみて、日輪と月詠は微笑む。

そうしてしばらく談笑していると、突然梅の携帯が鳴った。

「……あ」

「どうしたんじゃ、梅」

「……そういえば、仕事中でした」

ちょっとすみませんと言った梅は、冷や汗を掻きつつぎこちない動作で電話に出た。

『梅コラァ! テメー今どこにいやがる!?』

「うわっ、びっくりした。声大きいですね」

『いいから早く――』

と、そこで怒った様子の土方の声が途切れ、代わりに爆発音のような音が響いた。

『もしもし、梅ですかィ』

「あれ、総悟? どうしたんですか土方くんは」

『土方コノヤローなら水泳中でさァ。三途の川でね。それより、任務が終わったンなら早く戻って来なせェ。山崎がオメーが戻って来ねェだなんだうるさくてねィ、ロクに昼寝も出来やしねェ』

「はい、すみません。すぐ戻りますけど、昼寝してないで仕事してくださいね」

『へいへい。じゃ』

最後まで土方の声が聞こえなかったが、多分生きてはいるだろうということで、梅は電話を切った。

それから梅は月詠、晴太、日輪の三人に軽く頭を下げる。

「すみません、そろそろ仕事に戻らないといけなくて……。お茶とお団子おいしかったです。お代は――」

「いいよお代なんて。梅ちゃん、月詠の友達なんだろう?」

「ありがとうございます。次来る時は払わせてくださいね」

「ああ。いつでも来な、歓迎するよ」

「またね! 梅姉」

「はい、また。月詠さんも」

梅は再び一礼し、屯所へ戻るため歩き出した。

だが、

「梅!」

「あれ、月詠さん。どうかしました?」

追ってきた月詠に呼び止められた。

「あ、その……仕事中に引き止めて悪かった。それと……ヒマな時にでもまた来なんし」

少し照れた様子の月詠に、梅の表情は綻んだ。

「それなら気にしないでください。また来ますね。――あ、それと今度から"月詠ちゃん"って呼んでもいいですか?」

「は?」

「駄目ですか……?」

「い、いや……好きにしなんし」

「ふふ、ありがとうございます」

慣れない呼び方に少し困惑する月詠だったが、やがてふっと笑い、片手をあげて別れの挨拶をした。

HOME