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【青の祓魔師】アーサー・O・エンジェル/女主(祓魔師)
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悩みのない奴なんていない、と言ったのは誰だったか。
シュラはふとそんなことを思い出した。
彼女はへらへらとしており一見すると悩みなんてなさそうな雰囲気だが、やはり彼女にも悩みというものはあった。……別に酒で忘れているわけではない。断じて。
ともかく、その悩みとは、彼女自身のことではなく、彼女をとりまく環境にあった。
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とある比較的平和な日のヴァチカン本部。
「あっ、シュラさーん!」
向かい側の廊下から走ってくるのは、平和とはいえピリピリした雰囲気の本部にはそぐわない少女。
「おー、亜依。どした?」
「えっと、アーサーさん見ませんでした?」
少女、明坂亜依はシュラ直属の部下である。
「あ? ハゲ? それならアタシも丁度報告書渡しに行くところだから、一緒に行くか?」
上司を躊躇いなく"ハゲ"と呼ぶシュラだが、これでも彼の実力は認めている。はずだ。
「はい! ありがとうございます!」
亜依は部下としても友人としても、よく出来た奴だとシュラは思う。
しかし少々天然である亜依は、何故かエンジェルに惚れている。というか恋人だ。社内恋愛かこの野郎、とシュラは思うわけだが。
本人たちがあまりにも幸せそうなので、そうも言い出せない。