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【青の祓魔師】奥村雪男/女主(正体不明)
・情緒不安定な夢主と世話する雪男
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とある日の旧男子寮。
「…………」
トントントントンと、調子よく刻まれるリズムと、歪な形に刻まれた野菜。
「亜依、大丈夫?」
僕がそう声をかけると、刻まれていたリズムが途絶える。
「なにが?」
背後にいる僕の方に態々振返って聞く亜依。
「……怪我とかしてない?」
「してないよ」
「そう。なら良かった」
そう言うと、微笑んだ亜依は再び後ろを向き、野菜を切り始めた。
*****
僕の恋人である亜依は、感情の起伏が激しく不安定だ。
今日はとても穏やかな態度で接してくれているけど、偶にやけにイライラしていたり、突然泣き出したり、甘えてきたり、一日のうちで変わることもある。
彼女の保護者であるフェレス卿が「小さい頃からそうでしたから、いつも通り変わらず接してあげてください」と言っていたので、なるべくそうできるよう努めている。
今日は丁度兄さんも出かけていて、亜依が手料理を振舞ってくれるというので僕は大人しく座って待ってはいるが、心配で仕方がない。
「ひ……っあ……っ!」
「! 亜依、どうしたの?」
怯えたような声がしたので、急いで亜依の様子を見に行くと、指を切ってしまっていた。
「や、やだ……血……っ……」
涙を零し、包丁を足元に落とす亜依。
「亜依、落ち着いて。大丈夫だから」
とりあえず案外深く切れていた指を水で洗い、絆創膏を貼る。
彼女は血が嫌いらしい。フェレス卿がそう言っていた。
「亜依?」
「……」
俯いて黙る亜依。
「ゆ、きお……」
名前を呼ばれたかと思うと、突然抱きついてきた。
「……どうしたの?」
抱きつく亜依は、泣いているようだった。
「指、痛い?」
そう聞くと、首を横に振る亜依。
首の動きが終わると、亜依は床にへたりと座り込んでしまった。