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【Fate/Zero】ウェイバー・ベルベット/女主(時計塔講師)
・ケイネスに論文を馬鹿にされた後の話
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「馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって!」
時間をかけて書き上げた論文をケイネスに破られ、大勢の前で恥をかかされたウェイバー。
ケイネスに対する愚痴をこぼしながら廊下を大股で歩いていると、荷物を運んでいた男性の台車に脛をぶつけ、更にはケイネスへの届け物も頼まれた。
届け物が何なのか調べようと再び歩を進めると、向かい側から見覚えのある女性が歩いてくるのに気づいた。
「あれは……」
ウェイバーが声を上げると、その女性、時計塔でケイネスの助手をしている明坂亜依もこちらに気がつき、手を振りながら小走りでウェイバーに寄ってくる。
「こんにちはウェイバーくん、講義はどうしたの?」
「えっ、あ、その……」
「まさか、抜け出したの?」
くすくすと笑いながらそう言う亜依に、ウェイバーは驚いた。講義を私情で抜け出してきたということを何故怒らないのかと。
「そういえばウェイバーくん、この前の論文はどうだった?」
「………」
論文の結果より、何故亜依が論文のことを知っているのかということの方に考えがいったが、考えてみれば彼女はケイネスの助手であったと思い出す。
「……あまり良くなかったようね」
困ったように微笑む亜依。
「……亜依さんも、魔術師の実力は歴史が全てだと思いますか?」
明坂家は魔術師としての歴史が長い。
だからこそウェイバーは聞いてみたかった。
というのは建前で、本当は亜依に自分の考えに同意してほしかった。
「そうね……歴史が全てとは言い切れないけれど、それも少なからず影響してくると私は思う」
「…………」
やはり彼女もケイネスの部下だったと、ウェイバーは思ったが、次の言葉でそんな考えは一瞬にして消え去った。
「でも、努力と才能でそれを覆すことは可能」
ウェイバーはほぼ反射的に俯けた顔をさっと上げた。
彼女の考えが自分の考えと全くと言って良いほど同じだったからだ。
「歴史だけ長くても、本人の努力がなければ何もできないもの。それに――」
「それに……?」
亜依はそこで言葉を区切り、一瞬逸らした視線を再び真っ直ぐウェイバーへと戻した。