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【淡島視点】
いつもより小さな声で、トイレに行ってくると言って出て行ったきり戻って来ない亜依ちゃん。
……大丈夫かしら、相当顔色が悪かったけれど……。
念のためと一緒に行ってやれば良かったかもしれない。
正直、心配で仕事が手につかない。急ぎの仕事ではないからというのもあるが。
亜依ちゃんは自分の事を滅多に口に出さない。何でもかんでも一人で抱え込んで疲れている印象がある。19歳とはいえまだ子供なのだから、もっと肩の力を抜いて、出来れば他の隊員達とも上手くやってほしい。だが彼女は不器用だからそれが出来ない。だから私は少しでもあの子に頼って貰えるよう色々世話を焼きたくなるのだが――
……何を考えているんだ私は。
「副長、伏見さんはどこに?」
そう、秋山も無関心を装っているだけに違いない。装いきれてはいないが。彼は気づけば亜依ちゃんを目で追っている。他の隊員達もそうだ。彼女には、見ていてこちらが不安になるような儚さがある。
「いや……ちょっとな」
ここで正直に言うのもなんなので、適当にごまかした。
秋山は納得いかない様子だったが、何も追求はしてこなかった。
少しして、タンマツが高い音を出して震えた。
見ると、亜依ちゃんから"申し訳ありませんが、トイレまで来ていただけないでしょうか"と、送られてきている。
嫌々敬語を打つ様子が目に浮かぶが、亜依ちゃんからの頼みだ。私は迷わずトイレへ向かった。
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「伏見?」
トイレに着き、中に入ると、一番端の個室だけ施錠されていた。
その個室の扉が、内側からノックされる。
「どうしたの?」
「…………ってますか」
「え?」
「チッ。……生理用品、持ってますか」
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私は一度自室に戻り、新品の下着と"生理用品"を持って亜依ちゃんの待つトイレに戻った。
「伏見、持ってきたわよ」
「……あ、ありがとう、ございます……」
声だけだが、大分辛そうだ。重い方なのだろうか。
……そういうイメージはあるけれど。
「じゃあ、鍵を開けて」
「えっ」
「どうかした?」
「いや……下の隙間からとかでもいいんじゃ」
「汚れたりしたら大変よ」
「じゃあ上から――」
「いいから開けなさい」
「……チッ」
鍵が開けられ、扉が少しだけ開いた。そこにできた隙間から、亜依ちゃんの簡単に折れそうな腕が伸びてくる。
だがそれには構わず、扉に手をかけ、そのまま全開にした。
「なっ……!?」
目の前には、下着を下げた状態で、足を閉じて座る、驚いた表情の亜依ちゃん。
私は個室に入り、扉を閉め、鍵をかける。
「副長、何して……っ」
慌ててスカートの前を伸ばそうと押さえているが、その姿は逆に煽っている。
「持ってきたわよ。"生理用品"」
亜依ちゃんの目の前に、それを差し出した。