B 志村新八
「新八、おめーはやればできる子だと思ってたよ」
【新八視点】
「おめっ、今時レジ打ちなんてチンパンジーでも出来るよ!! オメー人間じゃん! 一年も勤めてんじゃん! 何で出来ねーんだよ!!」
ある日の昼過ぎ。依頼が終わってから昼ご飯を食べようと入ったファミレスで、聞き覚えのあるセリフが僕の耳に入ってきた。
「す、すみません。忍術しかやってこなかったものですから」
これまた聞き覚え、いや、言い覚えのある返し。いや、忍術は知らないけど。
「何あの子、単行本一巻からやり直すつもりか?」
銀さんもそれに気付いたらしく、僕の背後を見ていた。
その視線を追って僕も振り返ると、そこにいるのは店長っぽいハゲたメガネのオッさんと、バイトっぽい小柄な女の子。
「オメーもあんなんじゃなかった? 何、もしかして今回、回想だけで30分終わらせようとしてる?」
「いや、これアニメじゃないですから。ていうかそんなこと言ってないで助けたりとかないんですか」
「あ? ンでそんなめんどくせーことしなきゃなんねーだよ。それにレジ打ちも出来ねーんじゃ使いモノになんねーのは事実だし、つーか、別に手ェ上げられたりしてるワケでもねェし」
そう言った銀さんだが、やはり気になりはするようで、パフェを食べつつも時々様子を窺っていた。素直じゃないよなァ。
「忍者はもうとっくに滅んだんだよ!! それをいつまでお庭番衆気どりですかテメーは!! あん?」
どうやらあの女の子は元忍者らしい。ていうか、店長今"お庭番衆"って言った?
「オイオイ、そのへんにしておけ店長」
もしかしたらさっちゃんさんや服部さんの知り合いかも、と思ったところで、別の男の声が聞こえてきた。
「オイ娘、レジはいいから牛乳頼む」
「あ……ハイ、ただいま」
そう返事をして、女の子は奥へ牛乳を取りにいった。注文したのは天人で……って、もう単行本一巻読むかアニメ第二話をみてくれればわかると思うけど、トラみたいな見た目をした、確か茶斗蘭星人。
「旦那ァ、甘やかしてもらっちゃ困りまさァ」
「いや、あんな小娘が働いてンのを見てるとなんだか哀れでなァ」
そんな話をしていると、女の子は盆に載せた牛乳を零さないように、しかし急ぎ足で天人の卓へ近づいた。
この流れは――
「う、わぁっ」
僕はあの女の子が昔の自分と同じことをされると予想して立ち上がるも、一歩遅かった。
「つい、ちょっかいを出したくなる」
床に派手に零れた牛乳、そしてそれを被ってしまった女の子、不自然に伸ばされた天人の足。
彼女が転ばされたのと同時に立ち上がってしまったため、僕の袴にも牛乳がついてしまった。
「何やってんだ#name1#!! スンマセンお客さん!!」
店長は怒りだし、天人と僕を見て謝る。僕の方は一瞬しか見なかったけど。
「オラッ、おめーが謝んだよ」
そう言って店長は彼女――#name1#さんの襟首を掴み、無理矢理顔を上げさせた。
「ごめ、っなさ――」
と、#name1#さんが謝りきる前に、声を掛けた。
「おい」
「あ? お、オメー、もしかして新八――」
僕は店長の言葉を最後まで聞かず、銀さんから借りた木刀で殴り飛ばした。
「なっ、なんだァ!?」
「なんだ貴様ァ!!」
天人たちが騒ぎ出す。
「侍……?」
足元から小さく驚くような声が聞こえた。
「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ。発情期ですか、コノヤロー。……でしたっけ?」
僕はこの時、誰よりも強い侍になったような気分でいた。