@ 一線を超える-1

【奉太郎視点】

湯当たりでダウンした俺は、現在部屋で伸びている。

この部屋まで運んでくれたのは里志、布団を敷いてくれたのは伊原。千反田は先ほど見舞いに来たが、俺はいたたまれなくなって追い返した。

伊原の親戚の子供も交えて怪談話をするから、来れそうなら来いと言われたが、おそらく行くことはないだろう。

不快な浮遊感の残る頭では、これ以上動こうという気になれん。そもそも怪談話に興味がないというのもある。しかし旅先で世話をかけてしまったことは多少悪いと思っていた。

もう寝てしまおうかなんて考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

「折木?」

ゆるい声の主は言うまでもないが、これまで俺のもとに姿を見せなかった#name1#だ。

「おー……#name1#か……」

「福部に行けって言われたんだけど、どうかした?」

里志、なんて余計なことを。俺がこんなことになっているのは、こいつが原因でもあるんだぞ。

千反田に誘われて、俺と#name1#も同じタイミングで風呂に向かった。

当然ながら男女別ではあるものの、壁1枚挟んだ向こう側の音というものは聞こえてくるわけで。

……くそ、何を思い出してるんだ俺は。

そうしている間にも、#name1#は部屋に上がってくる。俺が湯当たりしたという情報は、どうやら与えられていないらしい。

俺が布団に転がったまま動かないのを不思議に思ったのか、#name1#は俺のすぐ横に座って、真上から覗き込んできた。

「もしかして、湯当たり?」

「うるせえ……」

「あー、まだ熱いね」

「っ、おい……!」

#name1#は俺の頬に手を添えてきた。冷え性なのかは知らないが、先刻同じようなことをしてきた千反田よりも少しひんやりとしたその手は、正直言えば気持ちよかった。が、それを享受できない事情が俺の中にはある。

「えーと、大丈夫?」

そう聞く声は、全く心配しているような雰囲気ではなかった。だが、こいつはただいま"薔薇色体験コース"中だ。大丈夫だと見てわかるが、大丈夫かと直接聞くコミュニケーションの重要性を確かめているらしい。

「大丈夫だ」

別に俺がそれに付き合ってやる理由はないが、断る理由もなかった。それに、俺の話をもっと聞きたいなんて言ってくる変な奴だが、そう言われて悪い気はしないしな。

「そう。よかった」

そう言った#name1#の顔を、一目見てみようなんて思ったのが間違いだったのかもしれない。

目元を隠すように置いていた腕を額にどけて、#name1#を見上げた。

すると、ちょうど正座から立ち上がろうとしていた#name1#はバランスを崩したのか、俺に覆いかぶさるように両手を布団の上についた。

「うぉっと、ごめん」

「ふご! もご!」

俺の顔面は柔らかい確かな体積に押しつぶされていた。

「あっ。ごめん、大丈夫?」

今の"大丈夫?"には、心配の色が含まれていた。自分の胸部体積に自覚はあるらしい。

慌てて俺の上からどいた#name1#。俺も上半身を起こした。気をつけろと一言言ってやろうと横の#name1#を見ると、今ので着崩れたのかやけに浴衣が乱れている。

「うあ、ちょっと待って、着るから……」

#name1#は胸元の布を引っ張り、浴衣の袷を直そうとしていたが、問題はどちらかといえば足の方だと思う。浴衣の裾の間から、大胆にも片足が露出していた。

その姿を何故かぼーっと眺めてしまっていると、突然#name1#は手を止めた。

「折木、それ」

#name1#は俺を指差した。行儀が悪いなんて言っている場合じゃない。その指の向かう場所を見れば、

「っ、いや違う! これはーー」

勃起をしていたのだ。嘘だろ。#name1#で? #name1#だぞ。心当たりしかないじゃないか。

くそ、言い訳の余地がない。俺は明らかに#name1#を見て興奮している。

「……見る?」

「は?」

「見ていいよ。折木だし」

「どういう意味だ」

「え、わからない?」

わかってたまるか。何故この状況で俺に体を見せようとしてくる? 襲われるという発想はないのか?

「あー……すごい言いにくいことなんだけど……」

と、珍しく言い淀んだ#name1#。

「折木に抱かれてみたいなあって思って」

「…………は?」

「……そういうわけだから、よろしく」

俺の頭が理解を拒んでいる間に、#name1#は乱れた浴衣姿のまま俺を布団に押し倒してきた。

そして無遠慮に下腹部の上に尻を落とした#name1#。

「あっ……」

「え、今の気持ち良かった?」

「う、うるさい、いちいち聞くなよ」

「私はこれ・・ついてないから、聞かないとわからない」

#name1#は困り顔で、ついにそこを触ってきた。

「でも、折木は何もしなくていいよ。寝てて」

「おい、勝手に話を進めるな」

「出したくないの?」

出したいに決まっているだろう。その状態になってしまっては、男はみんなそうだ。しかし。

「お前が戻って来なかったら、あいつらが様子を見にくるだろ」

「私はもう寝るって言ってある」

「ずいぶん用意周到だな」

「効率的に動いただけ」

その言葉は実に俺好みではあるんだが……。

「大丈夫、折木は寝てるだけでいい」

#name1#は俺の浴衣の裾を左右に開き、両足の間に座り直した。

「すごい、こんなに硬くなるんだ」

「っ、#name1#、やめてくれ」

心にもない拒否がこぼれ出る。しかし#name1#はそれを聞いても行為を止めようとはしなかった。

「それ、"やめてくれ"って言う顔じゃないよ、折木」

いつも真一文字かややへの字に結ばれている#name1#の唇が、珍しく弧を描いた。

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