C 黒トリガー争奪戦
【あい視点】
遠征から帰還したその日、上層部へのトリガー献上から戻ってきた当真先輩は、隊室に戻るなり"準備をしろ"と言い出した。
「何の準備ですか? 冬島さんは無理そうですよ」
遠征艇で船酔いをした冬島さんはソファに寝転がってダウンしていたので、わたしはそれに水を与えていた。スポドリやゼリーのような気の利いたものはここにはないから水道水だけど。
真木先輩は他のオペレーターさんたちと話しに出ている。
「あいだけでいい。真木はオペの方で把握してんだろうしな。玉狛の
「玉狛の
「いや、新入りがいるらしいぜ。遠征組と三輪隊合同っつーから、城戸さんも本気だな。指揮は太刀川さんで、今夜仕掛けるってよ」
「急ですね」
玉狛に迅さん以外の
「いいのかあい? お前、玉狛派だろ」
「玉狛は好きですけど……
当真先輩はわたしの返答に微妙な顔をして、しかし何も言ってはこなかった。
*****
【迅視点】
遠征帰りのボーダートップ
太刀川さんの後ろには出水、風間隊、三輪、当真の姿が見える。
「よう当真。冬島さんとあいはどうした?」
「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ。あと、愛しのあいならここにいるぜ」
あいは小さいから当真と太刀川さんの影に隠れていたようだ。にしても"愛しの"とは当真もわかってるな。
「あい、今からこっち側に付かない?」
「えっ、いやです」
あいは少しむっとした表情で首を横に振った。知らないうちに玉狛に入ったやつがちょっと羨ましいんだろう。
あとから来る嵐山隊にも同じ感情を向けそうだと想像すると同時に、そんな未来も視えた。なんだかんだであいには好かれてるからね、おれ。
と、おれがあいのことを考えながらも真面目に話していると、援護に来てくれた嵐山隊が到着した。
そして太刀川さんたちも臨戦態勢に入る。
「おもしろい。お前の予知を覆したくなった」
やれやれ、そう言うと思ったよ。
*****
【あい視点】
「さすが迅さん、イヤな地形選ぶぜ」
「おもしろいくらい射線通りませんね。さすが迅さん」
「おもしろがるな雨取」
なぜわたしだけ怒られたのか。さすが迅さんと言いだしたのは当真先輩だ。
『太刀川さん、そろそろ分断させますかね』
『だな』
隠れ場所を見つけると内部通話で戦況観察と予想を始める。それくらいしかすることがないのだ。
『わたしたちは迅さん狙いでしょうか』
『お前、迅さんのこと撃てんのか?』
『撃てますよ』
当たらないだろうし当てる気もないけど、という屁理屈は口には出さない。
でも実際、ノーマルトリガーの迅さんなら撃っても問題ない。風刃は
『あのー、迅さんの方は
『やっぱ迅さん撃ちたくねーんじゃん』
『進んで撃ちたくはないですけど、戦力配分の話ですよ』
わたしははっきり言ってこちらが勝つことはないと思っている。なにしろ風刃を持っている迅さんが相手だし、迅さんは負け戦のような意味のないことはしない。あと嵐山隊も普通に強い。
早いとこ向こうに付きたいが、バレるとまずい。だから普段から学校でも面識のある佐鳥くんのところに行ってみようと考えた。彼ならいきなり撃ってくることはないはず。
『太刀川さん、うちのおチビが佐鳥殺してーって言ってんだけどいい?』
『そこまで言ってないです……』
内部通話で太刀川さんに呼びかけた当真先輩。ほどなくして太刀川さんからも返答があった。
『いや、あいは迅を撃て』
ほらぁ、と思わずにはいられない。太刀川さんはいつも迅さん絡みでわたしをいじってくる。
『あいに撃たれたら、ショックで動きが鈍るかもしれないしな』
『そんなわけないじゃないですか、迅さんが』
どこまで本気で言っているのかわからないなこの人。
『はぁ、わかりました……。射線通るとこに移動しますね』
とりあえずそう返答して、わたしは佐鳥くんを探すことにした。
*****
少し離れたところにある、公園広場が見渡せるマンション。その上階の一室に佐鳥くんはいた。
「佐鳥くん、おつかれ」
「なっ、あいちゃん!?」
突然真後ろに現れたわたしを警戒して、佐鳥くんはイーグレットを向けてきた。しかしわたしがバッグワーム以外を起動していないことに気がつくと、訝しげな表情になる。
「あいちゃん、攻撃しないの?」
「うん。わたし、迅さんの味方だから」
「えっ、聞いてないんだけど」
「うん。迅さんにも言ってないし」
「えっ、どゆこと?」
部屋の窓から見える公園広場には出水先輩、米屋先輩、三輪先輩がいた。
「あ、佐鳥くん。木虎さん危ないよ」
「えっ!? ちょ、助けないのかよ!」
と言いつつ移動の準備を始めた佐鳥くん。同じマンション内で戦っていたらしい木虎さんが外に出てきたところを、米屋先輩の槍が貫こうとした。しかしその刃先は木虎さんをかばった時枝くんに当たり、時枝くんは
「わたしがかばったら当真先輩にはバレるし」
「え〜……」
「大丈夫だよ、どう転んでもわたしたちは負けるから」
「うわぁ、迅さんみたいなこと言い出した」
「…………」
「そこ照れるとこ?」
照れてない。
佐鳥くんの背中に返事の代わりのパンチを入れて、兵が密集しているマンションから出る佐鳥くんについて行く。
「佐鳥くん、わたしが
「嵐山隊と迅さんも巻き添え食らうよねそれ!?」
「それはほら……いったんこっちに来てもらって」
「なんも考えずに言ったのね、この子」
「あまりにも仕事がないから、つい。でも一発ぐらい撃たないとそろそろ不審がられそう。佐鳥くん落としていい?」
「え〜、味方じゃなかったの?」
「味方だよ。……当真先輩に聞いてみる」
内部通信を使って当真先輩たちに問いかけた。
『当真先輩、わたしの
『それ、たった今出水が同じこと言ってたぜ』
『あい!』
『更地はやめろ』
笑って言った当真先輩、ちょっと嬉しそうな出水先輩、呆れた声音の三輪先輩が順に答える。あれ、佐鳥くんの処理は?
『あいが捕まえてんなら佐鳥は戦力にならないだろ』
『佐鳥は好きにしろ』
とのことだった。
「佐鳥くん、先輩に愛されてるね」
「は?」
「佐鳥くんと一緒にいるって言ったら、煮るなり焼くなり好きにしろって三輪先輩が」
「出水先輩じゃなくて!? てかそれ愛されてないよね!?」
出水先輩ならそれを言っても違和感ない印象なのか。まあ確かに。
「あ、そうだ。レーダーで三輪先輩たちの居場所、嵐山さんたちに教えてあげたほうがいいよ」
「あいちゃんさ、敵なのか味方なのかはっきりしてよ……」
「味方だよ」
「説得力求む」