C 入隊式

【迅視点】

あいを玉狛支部に仮入隊させてから早3週間。今日は本部での入隊式が行われる日だ。

支部長の許可が下りているとはいえ、本部への正式入隊はまだ。あいには形式だけではあるが入隊試験や面接も受けてもらった。

ちなみに面接官がなぜか挙動不審だった、と彼女は言っていたが、十中八九その並外れたトリオン量に動揺していただけだろう。

とりあえずポジションは攻撃手アタッカーでいいだろうということになり、スコーピオンを使っての訓練をおれと小南、時々レイジさんでこの3週間みっちり行った。

だからおそらく今期入隊する隊員の中では一番戦闘能力が高いだろうし、新入隊員の指導を担当する嵐山も驚くに違いない。サイドエフェクトがなくてもわかる。

そして、この入隊式が終わったら、あいは本部に転属となるだろう。今朝、あいを視たときにはもうほぼ確定していた。ついでに小南が泣きながら餞別のカレーを作っている光景も。

あいが玉狛の所属じゃなくなることは正直言って残念だ。だが、これはあいのより良い未来のためにも必要なことだった。

だからおれは何も言わずに本部に向かうあいを見送ったのだ。

そして今、彼女が出て行ったあとの玄関に、未練がましく突っ立っている。

*****

【あい視点】

本部に入るのは初めてだったから道に迷わないか心配だったけど、桐絵ちゃんが入口まで一緒に来てくれた。

桐絵ちゃんはこの後防衛任務があるからすぐに別れてしまったけど、本部に入ると新入隊員らしき白い隊服の人たちが列を作っているのが見えた。多分あそこに行けばなんとかなるだろう。

支部の新入隊員は他の人たちが着ている白い隊服ではないようで、わたしが換装すると黒い隊服になった。すごく目立つ。みにくいアヒルの子はこんな気分だったんだろうか。

「あなた、どうして隊服の色が違うのかしら?」

これは何かの番号順に並んでいるんだろうかとうろうろしながら探っていると、突然話しかけられた。長い金髪に長身の女の人だ。

「本部じゃなくて、玉狛支部で仮入隊したから……だと思います。多分」

「なるほど、そういうことね」

納得してくれたらしいその人はなんだか色気のあるお姉さまで、粗相をしないか緊張してしまう。

「私は加古望よ。あなたは?」

「雨取あいです」

「残念、"K"じゃないのね」

「K?」

「今後、自分の隊を作ったら、イニシャルがKの隊員で揃えようと思っていたの」

「へえ……」

斬新なメンバー決めだなぁ……。ちょっと変わった人なのかもしれない。

ともあれ、加古さんが話しかけてくれたおかげで招集までの時間を有意義に使うことが出来た。

加古さんはトリオン量が多く、射手シューターになる予定だという。射手シューター用のトリガーの扱いにはセンスが必要と迅さんが言っていたから、加古さんはセンスがあるんだろう。

ちなみにわたしが攻撃手アタッカーだと知ったときは、意外そうにしながら笑われた。狙撃手スナイパーだと思っていたらしい。

*****

入隊式が始まり、入隊指導オリエンテーションを担当する嵐山さんという人が壇上で話しているのを、ぼんやりと聞いていた。

はきはきと話す人で、よく見たらテレビで見たことがある人だということに気づいた。

攻撃手アタッカー銃手ガンナー狙撃手スナイパーで担当者が分かれるようで、3分の1に満たないくらいの人数が別室に移動していった。射手シューター銃手ガンナーに含まれるらしい。加古さんはまだ隣にいる。

こちらの組は嵐山さんが担当するようだ。

隊員はA〜C級に分けられていて、正隊員はB級から。主な活動となる防衛任務は正隊員にならなければ行えない……という説明は玉狛でも聞いたけど、桐絵ちゃんはだいぶざっくりしていたから、嵐山さんの丁寧な解説はありがたい。

C級の訓練用トリガーには、最初に選んだ戦闘用トリガーが1つだけセットされている。そして、そのトリガーをどれだけ使いこなしているかを数値化したものが、左手の甲に表される。

嵐山さんに促されるまま手の甲を見ると『3500』と出ている。上限いくつなんだろう。

モニターがついているわけではないのに数字が浮かび上がっていた。どういう仕組みなんだろう。

なんだか本筋ではなさそうな疑問がいくつも出てきてしまうが……あとで迅さんに聞いてみよう。

ともあれ、手の甲から嵐山さんに視線を戻すと、衝撃的な言葉が聞こえてきた。

「その数字を『4000』まで上げること。それがB級昇格の条件だ」

えっ、4000でいいの? というのがまず最初の衝撃。

「ほとんどの人間は1000ポイントからのスタートだが――」

仮入隊の間に素質を認められた者は、このポイントが上乗せされてスタートするらしい。

……玉狛、上乗せしすぎでは?

確かに入隊した途端すごく甘やかされた感はあったけど……反射的に手の甲を隠した。

ところで加古さんは何ポイントくらいなんだろう。すごいできる人感があるけど、聞いたら絶対聞き返されるから聞けなかった。

「雨取ちゃん? 次、移動するわよ」

「えっ、あっ、はい」

変な焦りをごまかしている間に、訓練が始まろうとしていた。

*****

まずは仮想戦闘モードでの戦闘訓練を行う。

仮想戦闘モードでの訓練は玉狛で経験しているが、相手は迅さんと桐絵ちゃんだったから、今回のような近界民ネイバーと戦うのは初めてだった。

……今朝、玉狛を出る前に迅さんに言われた"弱点は目だよ"という言葉は、これのことだったらしい。

制限時間は1人5分。早く倒すほど評価点は高くなる。

この敵は、言ってしまえば弱点丸出しだ。接近戦で仕留めやすそうな感じだし、多分いけるだろう。

少なくとも迅さんや桐絵ちゃんより強そうには見えない。あの2人の辞書に"手心"や"手加減"という言葉はないようだった。

隣接している訓練室を何部屋か使って行うようで、各自順番待ちの列に並んだり、観覧席のようになっている場所で様子見を始めた人たちもちらほら見えた。嵐山さんがそれを注意をしないあたり、少し感触を見極めてから始めてもいいようだ。

……わたしは最後に残るのは嫌なので、さっさとやってしまう派だけど。

*****

トリオン体に換装すると、身体能力が向上する。だからあの疑似近界民ネイバーの弱点である目のあたりまで飛ぶこともおそらくできるはず。

そう思ったので、ジャンプして近界民ネイバーの目にスコーピオンを力任せに突き刺した。迅さんいわく、わたしのスコーピオンは弧月並に硬いらしい。

思った通り、近界民ネイバーは動きを止めて、その場に崩れ落ちた。

……着地するとき、気を抜いたせいでちょっとバランスを崩して尻もちをついてしまったけど。恥ずかしい。

『1号室、終了。記録、3.8秒』

コケたところを見られて恥ずかしい。その一心で嫌々ながら訓練室から出ると、案の定周りがざわついていた。

コケた人なんか今のところ1人もいなかったし……顔が熱くなってきた。トリオン体も生身と同じく汗はかくし顔色も変わる、らしい。

「君が迅の言っていた玉狛期待の新人か!」

贅沢にも嵐山さんに出迎えられてしまった。迅さんなんて言ったんだろう。

「今のを見れば、そのポイントも納得だな」

眩しい笑顔で頷く嵐山さんは、ことごとくわたしの目立ちポイントを指摘してくる。この人本当は狙撃手スナイパーなんじゃないだろうか。

*****

他の人が全員終わるまでの間、観覧席の隅っこでその様子を眺めていた。

嵐山さんによるとこの訓練は1分を切れば優秀な方らしい。確かに、1分以上かかってる人も多かった。

加古さんは1分かかってなかったけど。あと、長身でなんだか圧のある男の人とか。

ちなみにさっきコケたところは加古さんにもばっちり見られていたが、"かわいかったわよ"とまた笑われた。その"かわいい"は、こう、なんていうか……動物とかに対して言うのと同じジャンルのやつなんだろうなぁ。

「お前、何ポイントだ? トリガーは何を使っている」

「……えっ」

びっくりした。いつの間にか横のベンチに長身の男の人がいて、そう聞いてきた。

「えと……スコーピオンです」

ポイントは手の甲を見せた。

「スコーピオンはあんなに耐久性に優れていたか」

「わたしは、その、トリオンが多いらしくて。それで」

迅さんから聞いた理由をそのまま伝えると、男は腕を組んで、ついでに足も組んだ。長くて羨ましい。ここまで大きくなろうとは、さすがに思っていないけど。

にしてもこの人、失礼だけどC級の隊服似合わないな……。

「二宮だ」

「え? あ、ああ名前……雨取あいです」

急に名乗るから聞き逃すところだった。

HOME