C B級

入隊式の翌日、C級ランク戦をいくつかこなすと、わたしはすぐにB級に昇格することができた。

対人戦ということで、玉狛でやっていた迅さんや桐絵ちゃんとの訓練のようなものを想定していたけど……多分、あの2人が異常に強かったんだろう。

しかしランク戦というものは思っていたよりも楽しくて、何回かやっているうちにスコーピオンで4500ポイント貯まっていた。

最初のポイントが高かったことで案外簡単にB級に上がれたから、これなら昨日やってしまってもよかったかも……と、そんな調子のいいことを考えつつ、ランク戦のロビーで少し休んでいた。

B級に上がったら、基本的には隊を組むらしい。とはいえ、わたしはボーダー隊員の知り合いなんて迅さんと桐絵ちゃん、レイジさんの他には加古さんと二宮さんしかいない。

玉狛の人たちとまずレベルが違いすぎる。加古さんはイニシャルKの人を探すようだし、二宮さんとは昨日会ったきりまだ姿を見ていない。というか、わたし以外にB級に上がった新入隊員の話を聞かないから、おそらくまだ同期はいないんだろう。

つまり、あてなんて1人もいなかった。

いったん玉狛に戻って相談してみようかと思っていると、見知らぬ男の人がこちらに向かって歩いてきていることに気づいた。

黒いロングコートにあごひげが特徴的な、ぱっと見ですでに強そうな人だ。こういうアレンジされた隊服を着ているということは、B級かA級なんだろう。

「おまえか、1日でB級に上がってきたやつ」

「あ……はい」

目の前で立ち止まったその人は、突然しゃがんだ。

「おまえ、小さいな!」

面白いものを見たかのように笑っているその人に、思わず片頬がひくりと動いた。

いや、別に小さいこと自体は気にしていない。けど。

「名前なんていうんだ? 俺は太刀川慶」

「雨取あいです」

「じゃああい。そこ入れよ」

太刀川さんはランク戦のブースを指差すのと同時に、わたしの腕を引っ張ってもはや引きずるようにして連行した。

*****

太刀川さんは見るからに攻撃手アタッカーっぽいなと思っていたら、やっぱり攻撃手アタッカーだった。

しかも弧月を両手持ちする二刀流スタイル。わたしはまだメイントリガーのスコーピオンしかセットしていないのに、サブトリガー使用はずるくないだろうか。

しかしそんな指摘をする間もなく、太刀川さんは10本勝負だと言ってランク戦を始めてしまった。

最初だからわたしの出方を伺っているのか、向こうは動かない。正直、自分より強そうな相手に仕掛けたくはないんだけど。

「どうした、来ないのか?」

ノリノリだなぁ、太刀川さん。きっと戦うのが好きなんだろう。

……突っ立っていても仕方ない。強い人から学ぶと思って、真面目にやってみよう。

スコーピオンを右手に出して、太刀川さんに向かって行く。

太刀川さんの正面からスコーピオンを振り下ろすと、弧月で受け止められる。その瞬間、太刀川さんが少し目を見開いた。

何だろうとは思いつつ、腕力で押し切ることはできないので一旦距離を取る。

「おい、それほんとにスコーピオンか? 硬すぎるだろ」

「えっ。ああ、その、わたしはトリオンが多いらしくて、そのせいです」

「そんなに硬ってえのは初めてだ」

スコーピオンは本来そんなに弱いものなんだろうか。迅さんや桐絵ちゃんには、硬いとかそんなに言われなかったのに。言わなかっただけかもしれないけど。

「次は俺から行くぞ」

親切にもそう宣言した太刀川さんは、弧月を構えて突進してくる。

それをスコーピオンで防いで――と思っていたら、いつの間にかブースのマットレスに転がっていた。

「……負けた」

起き上がってモニターを見ると、太刀川さんがすでに待機している。早く来いと言いながら。

「太刀川さん、強すぎ……」

でも、この人に勝ってみたい。

――なんて思ってしまったせいで、わたしの未来は大きく変わることになる。

*****

ランク戦10本勝負は、10-0で太刀川さんの勝利に終わった。

ブースを出て一言目に言われたのがこれだ。

「あい、おまえなんでスコーピオンしか使わないんだ? つーか、トリオン多いなら普通弾トリガー使うだろ」

太刀川さんは、やはりわたしがメインのスコーピオン以外にトリガーをセットしていないことを知らなかったようだ。

さっきの勝負でも、後半は旋空弧月とかいう新技を出してきた。あれはわたしにも他のトリガーを使えという意思表示だったらしい。わかんないよ。

まだトリガーのセットをできていないと正直に話すと、太刀川さんはまたわたしの腕を引っ張って、どこかに連行しようと歩き始めた。

*****

「月見、こいつのトリガーをいい感じに作ってくれ」

太刀川さんに連れてこられたのは、本部内のとある一室だった。

そして、そこにいたのは月見さんと呼ばれた美人なお姉さま。太刀川さんは部屋に入るなり月見さんにわたしのトリガーを手渡した。

「太刀川くん、この子は……?」

「さっきB級に上がった新人だ。多分強くなる」

「えっ」

勝負にならないくらいボロ負けした身としては、意外な言葉だった。

*****

太刀川さんはまたランク戦に繰り出すと言ってわたしを部屋に置いて出て行った。なんて人だ。

「あの……すみません、なんか」

「大丈夫よ。雨取さんは、スコーピオンメインの攻撃手アタッカーよね。他に入れたいトリガーはある?」

「えと、その、スコーピオンと弧月以外のトリガーは、あんまり知らなくて」

かと言って初対面の月見さんにそれを説明させるのは申し訳ない。

やはり玉狛に持ち帰って検討すると言い出そうとすると、月見さんは微笑んでそれを制した。

「トリガーは後から自由に組み替えることができるから、一度考えてみましょう?」

……せっかくの厚意を突き放す趣味はないから、ありがたくお言葉に甘えることにした。

「メインのスコーピオンと、シールドは両方に入れるとして、他はどうかしら。弾トリガーか、狙撃手スナイパートリガーもあるわ」

なるほど、他のポジションのトリガーを入れるのもありなのか。

月見さんは大まかに各トリガーについて特徴や用途を解説してくれた。

「太刀川さんが言ってたんですけど、トリオンが多い人は弾トリガーを使うんですか?」

「そうね。弾トリガーはトリオン量=攻撃力になるから、トリオンの多い人は射手シューターになる傾向があるのは確かよ」

「へえ……」

やはり弾トリガーは興味深い。が……、

「わたし、太刀川さんに勝ちたいんですけど、太刀川さんはどういう攻撃が苦手かわかりますか?」

そう聞くと、月見さんは驚いたあと、笑い出した。

「ふふ、ごめんなさい。そんなことを言う子、初めてだったから」

「だって、さっき10-0で負けたのが悔しくて!」

C級と正隊員を比べてはいけないかもしれないけど、力量差は歴然としていた。

それに太刀川さんは初めてランク戦で負かされた相手だ、今すぐじゃなくても、もっと腕を磨いて勝ちたい……そう思うのは、当然じゃないだろうか。

*****

月見さんいわく、トリガーチップは本部からの支給品なので、今日セットしたものは返さなくていいとのことだった。

そして今わたしは、林藤支部長と一緒に会議室に呼び出されている。

……なんでこんなことになったのか。

その原因は、つい20分ほど前に遡る。

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