C サマーライブ
夏休み。アイドルにとっては稼ぎ時、すなわちプロデューサーにも大した長期休暇は与えられないということだ。
……まあ、夏休みに遊びに出かける予定も相手も存在しないから、別にいいんだけど……と心中で愚痴って気を紛らわせる。ーーあ、嘘、朱桜くんと夏季限定パフェを食べに行く約束はしていたか。瀬名先輩に秘密で。
今日は近く行われる『サマーライブ』なるイベントの企画が始動するということで、午後から召集をかけられていた。
だから午前中の暇を用いて、以前から楽しみにしていたゲームをプレイするためにゲーセンを訪れている。
夢ノ咲で公言したことはないが、私はもともとEdenのファンだ。そして、Edenが主題歌を担当するゲームの稼働日が今日だった。
ちなみに私がEdenのファンであることは七種先輩も知っている。だが、転校前にプロデュース業を叩き込まれた際にキラキラしたアイドルへの純粋な憧れは吹っ飛ばされていた。
中学生時代は彼のことを"茨くん"なんて呼んでいたが、恐れ多くてもうそんな呼び方はできないし。
今でもファンであることには変わりないが、七種先輩の調教……もとい教育のおかけげで今後他のメンバーと顔を合わせても動揺しない自信はある。いやまあ、仕事の相手としてはそれが普通なんだろうけど。
ともあれ、Edenコラボの格闘ゲームをプレイすることにした。
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「あれ、ユリちゃん? 偶然だね」
筐体の前に座る私を見下ろしていたのは、Trickstarの遊木先輩だった。その後ろにはあんず先輩もいる。
「ああ、お疲れ様です」
「お疲れ様。意外だなぁ、ユリちゃんもこういうゲームやったりするんだ」
「敵情視察も兼ねてですよ」
「え? って、ああ、そっか。Edenとコラボしてるんだよね、このゲーム。僕も少しやってみようと思って来たんだ」
「そうだったんすね。あんず先輩もですか?」
「私は買い出しの途中だよ。遊木くんとは駅前で偶然会ったから」
大量のパンが詰め込まれた紙袋を抱えたあんず先輩は首を振った。
私は一通り遊び終わったところなので、遊木先輩に席を譲ることにする。少し早いけど、こっちも買い出しでもしてもう登校してしまおうか。
「じゃあ、私はこれで失礼します。遊木先輩は午後のレッスンでまた」
「うん、またあとでね」
「ユリちゃん、お疲れ様」
手を振る2人に頭を下げて、出口に向かった。
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今回のサマーライブは、実はもうコズプロ側での打ち合わせは済んでいた。
七種先輩の指示で私が作った企画書を、巴先輩にチェックしてもらうという流れだ。ちなみに巴先輩とは予定が合わず、まだ顔合わせはできていない。
しかし巴先輩も企画を気に入ってくれたようで、幸い大きな手直しもなく計画は進んでいる。
まあ、正直言って、こっちでTrickstarのプロデュースを頼まれるのは予想外だったけど。
普通にあんず先輩がやるものだと思っていたが、同時期に開催されているイベントが先約だったらしい。
とはいえ、これは嬉しい誤算でもある。あくまで夢ノ咲のプロデューサーという立場ではあるが、企画の意図は自分が一番よく知っているし。
七種先輩いわく、巴先輩はかなり自由奔放な人だから、それに従っておけば大丈夫とのことだった。
私もEdenのファンではあるものの、さすがに表舞台に出されない素の振る舞いまでは知るはずもない。だからこそ七種先輩の教育という名の調教を受けさせられたわけだが……その話は割愛する。