C オータムライブ
Trickstarの先輩方とあんず先輩は、どうやらサマーライブのリベンジを企てているらしい。
あんず先輩に頼まれて、私も一緒に企画書を作成した。
夏のリベンジということで、再びEveに挑戦する気のようだ。
でも企画書を作っていて気づいた。
こんな内容の企画書を送ったら、茨先輩にいいようにされるだろうなあ、と。そしてその片棒を担がされるに違いない。というか、最近仕事を押し付けられている気がする。
私個人としては、先輩方には何の恨みもないわけで、陥れようなんてことは微塵も思っていないんだけど……仕事と言われれば仕方ない、と割り切っている部分もある。
本来の所属は玲明学園だし、コズプロに所属もしているし。
……まだろくに活動をしていないから、分類上はモデル(売れてない)になっているけど。
ともあれ、その企画書を英智先輩が玲明に提出した翌日、私は秀越学園を訪れることになった。
*****
秀越学園内、Adam専用ルーム。
「じゃあユリさん、この資料お願いします」
「……いいですけど。茨先輩、私のこと何だと思ってます?」
「いやあ、言うなれば『有能な右腕』でしょうな!」
「声デカいな……」
思ってもいなさそうなことをやたらデカい声で言う茨先輩は、相変わらず忙しそうに動き回っているようだ。
今日は動き回ってはいないものの、キーボードを叩く指は休むことを知らない。
「あ、そういえば、夢ノ咲の企画書って見ました?」
「ええ、もちろん。それについても、一部あなたにお任せしようと思っていますので」
「えっ。でも、次のライブ、私はTrickstarのプロデューサーとしては同行しませんよ」
「ええ。なので、今回はこちら側で暗躍してもらいましょう」
「うぅ〜……了解です。私、嫌がらせの趣味はないですけど……」
と、資料を整理しながらぼやいていると、茨先輩は突然立ち上がり、こちらにやってきた。
そして私の横に立ち止まったかと思えば、顎を掴んで上を向かされる。
「えぁ、ちょっ、何ですか」
「あなたの大好きなEden、ひいてはAdamやEveのために、頑張ってくれますよね?」
「ひぃ……っ!」
推しの綺麗な顔が間近にあることに照れると同時に、その笑顔にゾッとした。
「さあ! ファンサまでしたんですから、働いてもらいますよ、存分に! 血肉を削って!」
「テンション高! 働きすぎておかしくなってんだこの人……!」
さっきのファンサは帰ってから存分に噛み締めた。
*****
かくして、自分で作った企画書を自分で修正するという、一見すると不毛な作業を任されることになった。もちろん最終的に茨先輩のチェックは入るが。
「あなたならどう料理します?」
「料理って……。うーん、まあ、そもそもEveとの再戦をするメリットは、正直こっちにはないですよね」
そう言って茨先輩の様子を伺うが、表情に変化はない。
「でも、Adamとタイマンってのももったいないですし……」
攻撃力で言ったらEveよりAdamが上だろう。日和先輩はあくまでアイドルとして、良いパフォーマンスのために行動していたから、茨先輩とは目的が違う。
Trickstarの先輩方もサマーライブのときより成長しているんだろうけど、Edenはそもそも格上で、こっちもこっちで日々成長しているし。
Adamとの1対1は避けつつ、Eveは使わず、こちらのやり方で……となれば。
「ーー秀越のオータムライブにTrickstarをゲスト出演させる、とか?」
夢ノ咲の企画書から顔を上げ、茨先輩を見る。今度は笑顔だ。しかも悪い方の。
「自分もそうしようと思っていました! ユリさん、やはりあなた、筋が良いですね」
「それ、喜んでいいやつなんですかねぇ……?」
「細かく指示する手間が省けました。ぜひオータムライブのプロデュースに手を貸していただきたい」
「そりゃまあ、そのつもりでしたとも」
「あっはっは☆ 自分とあなたの手にかかれば、我々の勝利は間違いありませんなぁ!」
茨先輩は満足気に頷いて、仕事に戻った。
*****
後日。
オータムライブのプロデュースにあたり、私に最初に言い渡された仕事はーー変装だった。
「なんでもいいんで、夢ノ咲の方々にバレないようにしといてください」
という、雑な指示を残して凪砂先輩を探しに行った茨先輩。
Adam専用ルーム内に簡易更衣室を作るらしいので、当分は私もここを拠点にすることになる。
どんな格好にしようかと考えたが、ここはやはり男装が妥当か。疑われないためには秀越の特待生として振る舞うのが一番自由に動けて自然だろうし、ここの生徒は大半が男子だ。
必要なものは茨先輩に言えば調達してくれると聞いているが、男子の制服と短髪のウィッグ、あとカラコンも。あとは一応、身分証明に生徒手帳もあった方が安心だろうか。
早速スマホで連絡すると、すぐに「今日中に手配する」と返ってきた。予想されていたんだろうなという早さだ。
茨先輩が戻ってくるまでに男装メイクを研究しておこうと思い、道具を取りに一度自宅に戻ることにした。
*****
数十分後、Adam専用ルームに戻ると凪砂先輩がいた。
「凪砂先輩。お疲れ様です」
「……ユリさん。こんにちは。……あれ、今日、お休みじゃないんだね?」
「あはは、オータムライブもありますしね。こき使われてますよ〜」
「……そう。楽しそうでよかった」
そう言って微笑み、持っていた石の観察に戻る凪砂先輩。そのご尊顔はあまりにも麗しく――って、いけない、ファンモードになるところだった。